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D.o.A. ep.58~

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鎖が振動に合わせて鈍い音を断続的に立てている。
屋外に連れ出された後は馬車のような乗り物に押し込まれた。
襤褸切れよりはいくらかマシな布を被せられたリノンは、出口側に陣取る鎖の握り主と、正面で不機嫌そうに顔を顰めた成金男によって退路を断たれていた。まるで犯罪者の護送だ。
すし詰めの監禁生活を長期間強いられ、体力的には幾ばくか弱っているものの、彼女の気持ちは依然萎えていない。
こうしておとなしくしているのは、決定的なチャンスを必ずモノにしてやろうと、虎視眈々と窺っているからだ。
この町をそんなに歩き回ったわけではないけれど、かなり複雑であることはわかっているし、港に近い町ということも知っている。
最終手段として、港へ逃げ込み密航すれば、この成金男の手からは逃れられるだろう。
生きてさえいれば、あの子とまた会える。
けれどこのまま連れて行かれた先に、きっと未来はないと、彼女の勘が告げていた。
ごとごと揺られながら、外の様子をしきりに気にする虜囚に、隣の男が苛立ったように鎖を引っ張った。
「―――うむ、元気な女だ。だが、逃げられると思うなよ」
成金男の声には、なぜかしらどこか満足げな響きがある。リノンが意気軒昂であることが喜ばしいらしかった。
―――だったらもっとちゃんとした食事ちょうだいよ、もっと元気になるから、と心中で愚痴る。

「しかし旦那様、その男、信用してよいものでしょうか。私には…いささか」
「問題あるまい。この女を渡して金を貰えば切れる縁だ。しかも法外のな」
「旦那様がそうおっしゃるなら…しかしこんな薄汚い女にそれほどの価値があるとはどうも信じがたいものですから」
「私とて信じられんさ。だが、あの香を四六時中吸って無事だった。指定通りだ、多少汚らしくとも文句はあるまい」

―――悪かったわね。どうせお風呂入れてないわよ。私が薄汚いのはあんたたちのせいじゃないの。
文句は胸の内だけに留める。
あの陰鬱な地下から出て外の空気を吸っていることで、精神状態が安定してきたようだ。
なにしろあの場所では、起きれば亡者のような虚ろな瞳に囲まれ、眠れば悪夢ばかり見る。
一人だけ正常という状態が、一層彼女を追いつめていた。
それにしても、彼らのやり取りに出てくる「その男」とは、いったい何者だろう。

「そろそろです、ナファディ様」

幌の外から呼び声があった。リノンはその名を、いつか耳にしたことがあった。
そう、あれは大勢と共にあの暗い暗い地面の下へ囚われる前のことだ。







作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har