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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 光司(こうじ)は雨戸を開ける。夜来の雨はあがり、淡々(あわあわ)な光が一瞬に薄暗い部屋に差し込む。その目映さに逆らい庭へと目をやると、木々が色づいてきているようだ。

 しかし、光司はそんな季節の移ろいに特段のときめきを抱くこともなく、キッチンへと向かう。トーストをカリカリに焼き、ハムとレタスを挟む。あとは無造作にマグカップにコーヒーを注ぐ。あ〜あ、一つため息を吐いた。そして、仕方ないかと呟く。

 半年前、光司の妻、愛華(あいか)は家を出て行った。そして1ヶ月前に離婚が成立した。実のところ、仲睦まじく愛華と暮らすつもりだった。それにもかかわらず、こんな人生の終盤が待っていたとは……。

 あの夜、スポーツ特番を観ていた。そんな時愛華が涙ながらに訴えてきた。私、やっぱり大輝さんともう一度やり直したいの、と。
 なぜ、還暦も超えた歳になって、離婚という最悪なことになってしまったのだろうか? しかも略奪者は現役時代の同僚の大輝だという。
 光司は今もってその原因がわからない。

 だが、あの出来事で──妻には、殺意があったのでは? と疑い始めてから、それは当然の成り行きかのように離婚へと突き進んでしまった。
 妻に裏切られたことは辛い。だが長年連れ添ってくれた女への感謝もあり、そこまで別れることに拘(こだわ)るなら、夫婦の呪縛から解き放ってやろうと愛華の要望を受け入れた。