小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

33粒のやまぶどう  (短編物語集)

INDEX|78ページ/169ページ|

次のページ前のページ
 


 ジジジーーーー。
 大樹は「ウッセーなあ」と唸り、枕元で鳴る目覚まし時計を止めた。そして目をこすりながら「えっ、これって夢だったのか?」と、まずは一安心。

 しかし、この夢って正夢、充分あり得るストーリーだ。大樹は早速節子にケイタイを掛ける。
「なあ、節子、今日浅草へ行くだろ。現地集合じゃなくって、駅前で待ち合わせしないか」
「いいわよ、だけどどうしたのよ」
「頼みがあるんだよ、一番左端の改札じゃなくって、右から二つ目の改札を、一緒に通って欲しいんだよ」
 こんな大樹の求めに「大樹は住む世界を確定したいんだね」と、節子から思わぬ言葉が返ってきた。まるで大樹が見た夢を知ってるかのようだ。

 大樹の脳はこれで余計にこんがらがったが、もし節子が左端の改札を通れば明朝体ワールドへ入ってしまう。その挙げ句に明朝体ワールドがお気に入りになり、この世界は最高なんて嘯(うそぶ)く節子を取り戻すのは、またまた大変だ。とにかく心は急(せ)くばかりだった。
 そして2時間後、大樹は節子と駅前で落ち合った。そこから二人で右から2番目の改札を通り、浅草へとやって来た。

 大樹は今、大提灯を見上げている。そしてフーと大きく息を吐き、しみじみと呟くのだ。
「カッコ良い書体で、『雷門』と書いてあるよな。明朝体でなくって良かったよ」
 これに寄り添っていた節子が、大樹の手をしっかりと握る。

「友達が話してたわ。左端の改札は、明朝体だらけの世界への入口ってね。ちょっと魅力だったけど、結婚前に観音さまからどうしますかと夢で打診があるんだって。今日右から二つ目の改札を通って浅草に来たでしょ。これが答えで、決まりね。さっ、これからもいろんなフォント花咲く世界で、二人仲良く暮らして行けるようにお願いしましょ」