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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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「おいおいおい、洋介、これは一体、何なんだよ!」
 スイーツを愛する単身赴任男の貴史、こんな珍奇な、いや、邪道なネーミングに度肝を抜かれてしまった。「なあ、洋介、ちょっとスイーツの王道からは外れてるようだけど……」とあとは口ごもるしかなかった。

 そんな貴史に、「舞子と二人で精魂込めて仕上げた新作があるんだよ。試食してくれないか」と洋介が抹茶ゼリーを目の前に置いた。
 それはまさしく〈 What's new ? 〉、「じゃあ、遠慮なく頂いてみるか」と貴史は一口口にする。するとそこには、ふわりと宇治抹茶の奥深い味わいがある。

「おい、洋介、これ、絶品だよ!」
 貴史は感動の声を上げた。
「ありがとう。俺知ってんだよ。貴史はハッピー・スイーツ探求の人気ブログ作家だろ。お前に褒められて、やっと一人前のパティシエになれたかな? そこで貴史に頼みがあるのだけど、このゼリーに名前を付けてくれないか」と洋介が頭を下げた。これに貴史は「ヨッシャ!」と親指を立てた。

 洋介と舞子の新作・抹茶ゼリー、上品な甘さと郁々(いくいく)たる香りがある。まさに至福の一時を運んで来てくれるスイーツだ。決して抹茶な嘘ではない。
 そんな感動をもって、貴史は洋介のお巫山戯さん路線をやっぱり友として尊重し、かつ前向きで気合いの籠もった名を授けたのだった。

「高校卒業後、洋介と舞子の二人が追い求めてきた究極の新作スイーツ、その〈 What's new ? 〉は── ウチ(宇治)、幸せになり抹茶 ──だよ」