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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 また、ここに『うまんまの箸』の言い伝えがある。

 昔、人里離れた所に権助(ごんすけ)一家が住んでいた。暮らしは貧しく、主食は雑穀と芋。子供たちはいつもひもじい思いで泣いていた。
 初雪も間近な頃、これでは冬を越せないと、権助はきのこなどを求めて森深くへ入って行った。
 森の夜は早い。いつの間にかとっぷりと暮れ、権助は道に迷ってしまった。ここは無理せず、うまんまの木の下で一夜を明かすこととした。

 だが空腹で堪らない。
 身の回りに目をやると、皮肉にも渋くて食べられないうまんまの実が辺り一面に落ちている。そんな時に権助は思い出した。リスはわざわざ実をむろ穴へと運び、うまんまの木の皮と一緒に食べる、と。
 権助は閃いた。早速うまんまの木の枝を折り、箸を作る。そして箸で実を摘まみ、舌で箸先を濡らしながら口へと放り込む。するとどうだろうか、渋みがなくなっているではないか。むしろ隠されていた甘みが染み出し、実に美味い!

 権助はここで気付いた。うまんまの箸はまずい食べ物を美味しくしてくれるのだと。
 これは凄いと権助はさらに箸を作り、家へと持ち帰った。それらを使い始めた権助家族、たとえまずい雑草でも美味しく食べられるようになった。結果、ひもじさはなくなり、子供たちはすくすくと育った。

 その上に権助は偉かった。森に入っては箸を作り、まずい食事しか取れない貧しい人たちや食が進まない老人たちに、とにかく食事が少しでも美味しく感じられるようにと、うまんまの箸を配り歩いた。

 しかし、権助は飽食飽満の金持ちだけには箸を譲らなかった、とか。