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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 こんな、ちょっとややこしい経緯を経て、私が選んだ旅行究極スポット、それは「タットケー」。ベトナムのハノイから北へ100キロメーターにある小さな町です。
 そこに到着した私は早速何の変哲もない街をぶらりと散策しました。それから屋台へと入り、ブンタン、つまり鶏だしのスープの五目米麺ラーメンを注文しました。さっ頂こうと箸を持った時です、アオザイを着たお嬢さんが前を通り掛かったのです。

 この瞬間です、驚きました。
 あちらこちらから声が飛んで来るではありませんか、「タットケー!」と。
 もちろんこれに私はクイック・レスポンスで、キリーツ。

 そうなのです、この町には掟があったのです。レディに敬意を表し、ご婦人の前では――タットケー!
 背筋をシャキッと伸ばし直立不動。私はこの仕来(しきた)りに感動致しました。
 今までの不埒(ふらち)な人生、まるでそれが綺麗に洗い流されるかのようで、いや、むしろこれからは真摯(しんし)に生き抜く熱い情熱を帯びさせてもらいました。こうして帰り便に搭乗したわけです。