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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 しかし、亜伊は知らない、男がどこで暮らしているのかを。だが、それでも良かった。エクレウス号と可愛い稚児がそばにいてくれさえすれば、たとえ潤が1ヶ月現れなくとも、信じて待てた。されども、それが3ヶ月を超えてくると、捨てられたのかと。いや、それともどこかで命を絶ったのかと、心が騒ぐ。

 そんな娘の将来を心配したのだろう、良い縁談が、と母が切り出した。そして父は、相手方はこの子と、馬を連れて来てくれさえすれば……、と言葉を濁した。
 亜伊はピンときた。相手はエクレウス号を農耕用としてこき使うつもりだと。重々しく首を横に振るしかなかった。

 しかし、亜伊は迷った。父母の気持ちがわかる。その上、この子にとって、父親はいつも行方知らずで良いものだろうか、と。
 その夜、亜伊は愛馬に寄り沿い、嗚咽した。冷えた涙がエクレウス号の地肌に深く沁みいく。愛馬の目にも涙が……。

 しばしの時が流れ、いきなりエクレウス号がヒヒーンと鼻を鳴らした。あとは前肢で地面を掻く。
 亜伊にはわかった、それは明らかに乗馬せよという合図だ。それから母が準備していた花嫁衣装へと細長い頸を伸ばす。これで亜伊は決心した。すべてエクレウス号に任せようと。