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ガラス越しの艶

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ガラス越しの艶

 視界の端でふと紅が揺れた
 あれはなに?
 心の中の想いそのままに視線をすべるように動かせば
 その先にはガラス窓越しに かすかに揺れる紅椿
 くもりガラスなので
 間近で見れば眼がさめるほどに鮮やかな紅も
 何かフィルターを通して見るように
 おぼろげで控えめに見える
 
 不思議なもので
 何故か昔から 私はこのガラス越しに見る紅椿が好きだ
 いや 紅椿というより
 曇りガラス越しに揺れるほのかな紅に惹かれるのかもしれない
 その慎ましさは 何も隔てるものがなく真正面から見る姿よりも
 どこか内側に少しの淫らさを秘めているような気がしてならない
 そう まるで咲き始めたばかりの蕾のような少女が
 汚れない美しさを誇りながらも
 艶やかな成熟した女の香りをほのかに漂わせるように
 
 今年もそろそろ椿の季節も終わろうとしている
 今朝 眺めた曇りガラス越しの幾つかの紅は
 春の心ない雨に打たれて揺れていた
 そこに眼を向けても紅色を見られない一年の残りの多くの日々
 私は幻の花を思い描きながらため息を零す
 ガラス越しの艶が私にほんのひととき もたらしてくれる熱さに
 想いを馳せながら
作品名:ガラス越しの艶 作家名:東 めぐみ