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ルドルフの憂鬱

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「ミスター!」
 そろそろ出掛けないと間に合わない。半ばイライラしながらボクは大きな白い袋の前で背を向けている彼に声をかけた。
「待ってくれ。もう少し、待っておくれ」
 のんびりした口調で彼が振り返る。
 ほんとに行く気ある? ……と言いたいところだが、その言葉は失礼だと飲み込む。
「ミスター。急がないと、クリスマスに間に合わなくなりますよ」
 ボクは既にそりの前にスタンバイ済。こう見えて、ベテランなのだ。でも……。
「配達は初めてなんだよ」
 だからって、随分前から準備しまくってるじゃないですか……。
「まだ何かあるんですか?」
 去年まで一緒にプレゼントを配っていた相方は、事務職へと昇格した。ま、ご年配なのでそろそろ引退だろうなと思っていたから、納得なんだけど。
 ボクはまだまだ若いから、と、今回、新しい相方が出来たのだけど、この御仁、なかなかのマイペースでいらっしゃる……。
「ト、トナカイくん!」
「“ルドルフ”で結構ですよ、ミスター」
 由緒正しき“赤い鼻”を伝承しているボクの名前は初代のミスターが付けてくれた。
「それでは、私も、“ニコラス”と呼んでくれ」
 ニ、ニコラス!?
「初代と同じ名前じゃないですか!」
「だろ?」
 にっこり笑って、赤いユニフォームに手を入れる。
「だから、なるべくしてなった。……と思っているんだがね」
 これが、なかなか……と溜息混じりに首を振る。
「自信を持って下さい。ミスター・サンタクロース」
「うむ……。そうだな……」
 はにかむように微笑んだその顔は、十分に合格点だ。
「これからプレゼントを配りに行くんだ。しっかり、笑顔でいなくては!」
 おぉお! 笑顔、満点!!
 でもなぁ……。
「ミスター……。折角のところ申し訳ないのですが……」
「なんだね?」
「その衣装は、暑いと思います」
「何故だね?」
「行き先はご存知ですよね?」
「勿論だとも!」
「今回の配達は……」
「オーストリアだろ?」
「は?」
「オーストリア」
 ほら、すぐそこの! と地図を指差す。
 あぁあ……。痛い勘違い……。
「ミスター。一文字抜けてます」
「一文字?」
 そう。一文字増えるだけで、南半球に変わっちゃうんだな、これが。
「“ラ”の字が抜けてます」
「“ラ”? ……オースト……。…………。オーストラリア!?」
 そうです。
作品名:ルドルフの憂鬱 作家名:竹本 緒