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私の読む「源氏物語」ー80-浮舟

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浮 舟

 匂宮は今でもまだ、あの、浮舟をほんのりと見たタ暮を忘れることがなかった。彼女はそんなに高い身分ではないと思うが あの初対面の時に感じた、人柄が、本当に美しく可愛いかったなあと、匂宮の浮気な気持は、あそこまでいって思いを遂げず、高ぶった気持ちを残したままで、終ったと、残念で、何とかならないかと自然に思うままに中君を、こんな女に関するちょっとしたつま らない事柄(中君が浮舟を隠したとの邪推)のために、後先考えずに女の事に関しては嫉妬をするのであった。
「思いも寄らず、貴女の態度は、私には、情なくつらい」
 中君に当たるのが彼女にとって辛くて、浮舟のことを総て夫の匂宮に話してしまおうと思うのであるが、もし彼が浮舟と関係しても浮舟を夫人としては待遇しないであろうし、それでも相当深い関係の愛人としては囲われなさるであろうが、薫が隠している浮舟を
口の聞きようが良くなく、もしも言い出したならばそのまま聞き流してしまうような匂宮の性質でもない。匂宮は側にいる女房にも、少し好みに合うような女であれば言い寄り、手をつけようと、決めたならば親王としては尋ねて行ってはならないような処でさえも尋ねて行くような、女には目のない性格であるが、あれから大分時が経っているにもかかわらず、思いつめのようである浮舟とは、一寸手を出したような女と違って、必ず浮舟との間に見苦しいようなことがあるに違いない。匂宮が何処かから浮舟のことを聞いたならばどうなるだろう。薫にも浮舟にも、どちらに取っても、匂宮が浮舟の消息を掴んだならば本当に気の毒ではあるが、それを私が防げるような匂宮の気性ではないから、匂宮が自分の気持ちを通してしまい薫との間に問題が起こったならばそれが、私が浮舟の姉であるために赤の他人の場合よりは、外聞悪く、噂が立つであろうと言うことばかりを中君は考えていた。そうして、どんな事があるにしても、彼女は自分から有りのままを話して事件を引起す琴がないようにと思って反省して、匂宮が探し求めて歩くのを気の毒とは思いながら、浮舟のことは告げることが出来なかった。作り事を言うことが出来ない中君であるから、心にしまい込んで何も言わず、匂宮に対して嫉妬をしている世間なみの女になっていた。
 薫は譬えようがないほど陽気に考えて、浮舟が自分が宇治へ行くのを待って居るであろうと気持が焦っているのであるが、右大将と言うような窮屈な身分であるから当然そんなに簡単に宇治へ行けるはずがないから、「恋しくは来ても見よかし千早振る神のいさむる道ならなくに」という伊勢物語の歌以上に難しいことである。が然し、やがてそのうちに浮舟を京にも迎えて良い生活が出来るようにしようと考えている。だがかって、薫は、宇治に行った時に、浮舟が居ることで山里の楽しみも増えることだと、考えたこともあるから、浮舟を京に移すことも説得に日数もかかるに違いないから、何か用件を拵えて行ってゆっくりと彼女に会って話をしよう。そのようにして当分の間は、宇治に、他人の気づくまいと思う浮舟の住み所を設けて、宇治のような所で、段々と、浮舟の気持を落ちつかせて置き、また自分のためにも、世の人からの非難が出ないようにして、自分の女として囲うのは、やはり平凡で目立たないようにするのが良いであろう。今急に京に迎えては、あれは誰だ何時からの仲であるのかと、人に咎められるのもうるさく、また、私の宇治行きの最初の気持である信心のための心にも反するであろう。また、中君が聞かれて自分が浮舟を連れて、きっばりと宇治を捨て、八宮や大君の昔を忘れた顔をしているような事は、自分としては大変不本意なことである、などと色々と薫は冷静に考えるのも、いつもの彼ののんびり過ぎる気持からなのであろう。
 けれども、薫は浮舟を移す所を、自分の屋敷の京三条宮近くに準備して、こっそりと建築していた。彼は、女二宮を迎え、今また浮舟の事もあって閑暇が無いような体になったが、中君には怠ることなく好意を寄せ、御世話をすることは以前と変わりはなかった。
その様子を見ている女房達は、夫である匂宮が世話をするのが当たり前のことであるのに、他人の薫がこれほどまでに中君に尽くすのは変なことであると思っていたが、中君も次第に人情をというものを理解するようになって、薫の態度を、この人は人情が厚い人で、未だに昔を忘れす、本当に姉の亡き大君を何時までも忘れない、気の長い情愛の浅くない方であると、中君は感動していた。薫は年を取るに従って一層立派になると共に、人柄も、世間からの信望厚くなり、匂宮があまりにも真心のない態度を見せるような時には、
不運な自分である、姉君の心にきめた薫の妻となることにはなっていないで、匂宮の浮気の蔭で物思いに苦しむ妻となってしまったと、思うことが多くなった。だが薫に会うことは中君にとっては難しいことになってきた。今は、年月も経ち、現在では、宇治在住の昔から離れて行き、中君の宇治以来の薫と中君との親睦を、深く理解しない新参の女房は、身分の高くない一般の平人こそ、その昔八宮につきあった程度の縁故があると言うのを頼りにした親睦を、続けて行くのにふさわしい。宮家などの縁故を頼りにして出世したいと考えているから、然るに、中途半端な親しくするのも、こんなに高い身分の方では、普通と違った睦しい状態は、却って、外聞が恥ずかしいからと、この新参の女房達は匂宮と薫の間を絶えず疑うから、中君はいよいよ苦しい立場になり、薫のことを思いはばかりながらも次第に薫との仲が薄くなっていくのを、薫はそうであっても少しも変わらない昔と同じようになかきみのために色々と尽くすのであった。匂宮も多情な性質がわざわいして見るのも、つらくいやな点も混じて情けなく中君を苦しませるようなことが時々はあるが、宮は若君がかわいく成長してくるのを見ては、中君の外にはこんな可愛い子供も生れて来なかったであろうと思い、中君を正夫人にと、打ち解けて隔てのない妻としてはだれよりも愛されるので中君は、以前よりは心が静まって過ごしていた。
 正月が過ぎた頃に匂宮は中君の許にやってきて少し大きくなた子供と遊び戯れている昼頃に、女童が、藍色の薄様で包んで糊づけにしてある包み文の、大きめなのに、小さな鬚籠を松の小枝につけたものと、別にまた真面目な立文とを、添えて走り着て中君に渡した。それを見ていた匂宮は、
「何処からの物か「
 と、もってきた童に聞く、
「宇治から、使者が、大輔殿に、さしあげますると、言って、持って参りましたのを、誰もいなくて困っておりましたから、気の毒で、何時もの如く中君様が御覧になると思って、わたしがうけとりました」
 と言うのが落ちつかず、慌てた様子で、
「この鬚籠というのは、金(銅線)で作って、色を塗った籠でしたねえ。松も上手く本物そっくりに作った枝ですねえ」
 と笑い名が喋り続けると聞いていた匂宮も笑って、
「さあ、自分も、その鬚籠と小松とをよく見てみよう」
 と言って、取寄せるのを、中君は嫌なことをなさると思い、
「文は大輔にわたして」