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私の読む「源氏物語」ー45-藤裏葉

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藤裏葉 ふじのうらば

 明石姫君の、春宮への入内準備(いそぎ)で、六条院内は忙しい間にも。入内が四月に延期となった事も、夕霧宰相の中将はあまり気にもしないで、ただじっと物思い勝ちで、気の抜けた心持がするのに、どうして自分はこのように腑抜けになたのかと、
「自分の気持でありながら、どうも執念深いなあこんなに真剣に、雲井雁を思い込む事であるならば、『人知れぬわが通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななん』、(人に知られないように私が竊にかよう恋路の関所の番人は宵になるたびに居眠りをしていてほしいものだ)古今の業平朝臣の歌のように、雲井雁の関守の父内大臣が、きっと許すに相違ない、心中では折れておられるという噂を、夕霧は耳にしながら自分より求婚もせず、申し出すも出さぬも、同じ結果になるならば外聞の悪くないよい時期の来るまで待ってよう」
 と思うのだが、我慢をするということも苦しくて、頭の中が混乱してしまっていた。
 他方、雲井雁は父内大臣がかつてそれとなく話された、中務宮の姫君と夕霧の婚姻の事に対して、
「万が一、本当にそうであるならば、タ霧は、私などに何の心残りもなくて忘れてしまうと思う」
 と思い詰めているが、二人は妙な工合に、離れ別れていても心が通っているから、相当な相思の間柄である。
 父の内大臣もかっては気の強い所を見せて、この婚姻に反対であったが、今は雲井雁も二〇歳にもなり反対する気持ちも弱り夕霧との噂のある中務の宮にも、夕霧を婿にと考えているのであれば別に又、自分が、とかく改めて夕霧ならぬ別人の婿を、雲井雁に選ぶような場合は、夕霧は雲井雁に無関係のよそ人でないのであるから、その婿のためにも気の毒であり、それは又、自分と雲井雁にとっても笑い者にされ夕霧を婿にしなかったと非難されることであろう。人の非難を我慢をするとしても雲井雁と夕霧との関係は世間にすでに漏れていることでもあるし、何とか、今までの心の強がりを治めて、やっばり夕霧に頭を下げることはしないでおこうと、考えていた。源氏は割合冷淡なようで、内大臣の甥である夕霧との中のことであるから夕霧に、不意に、雲井雁の婿にと申出るとしても、それもどうであろうと考慮して、
「解けない今までのことを和解するために、大袈裟に、今更夕霧を扱うような事も、夕霧の思うような事につけても、馬鹿らしい、どんな機会でまあ、夕霧と和解する気持を、それとなく申出ようか」
 となど色々と考えているうちに、三月廿日は亡き母大宮の命日で、深草の極楽寺に内大臣は参詣した。内大臣は子息をみんな従えて内大臣らしい装いで寺に参った。上達部も極楽寺に多数が参集したのであるが、夕霧宰相中将の出で立ちは内大臣の子息や上達部達に様子が劣らない程、威厳があって麗しく、その姿は今十八歳の男の盛りを成り整うて成熟し、何もかにも取揃えて立派な勇姿であった。
 夕霧はこの内大臣を「恨めしい」と思い申しなさるにより、内大臣に見られ(御逢い)申すのも、自然に気がおけるので、大層用心深くし、取りすましておりなさるのを、内大臣も、雲井雁の身の振り方に悩み、夕霧を婿にとの下心があるから、今日はよい機会と平素よりも特に気をつけて接していた。お供え物は六条院の源氏方からもあった。
夕霧は源氏よりも祖母である大宮の法事であるので総ての行事を引受けて世話をし、供養をしみじみと鄭重に、隙なくせっせと進行した。
 夕方になって、一同が帰る頃花はみな散ってしまい、夕霧が立ちこめて、あたりがはっきりせず、朧である、内大臣はまだ大宮が在世中、夕霧が内大臣を慕っていた事を思出し雲井雁の件を話し出そうかと考え、先ず優美に懐旧の歌などを、小声で吟誦し、じっと追憶に耽っている。夕霧も何となく昔を思い出させる様な夕べの霧に大層、気持もしんみりとして、みんなが、
「雨が降りそうである。早く御帰りなされてしまう方がよろしい」
 と、供の人達が帰りを急がして、騒ぎたてるのにやっぱりまだ前のように、じっと物を思いこんでいるのであった。内大臣は雲井雁の件が胸にあるから胸がどきどきして、夕霧の何か考え込んでいる様子を、最前から見ていたのであるが、思い切って夕霧の袖を引いて、
「いままでどうしたことか私を避けておられるようであるが今日の亡きお祖母の大宮様とのご縁を貴方はよく考えられて、私が貴方に取った行動を許してくだされよ。この歳になって残り少なくなった命であるこの私を無視なさるにつけても、私は貴方を恨み申しあげます」
 と内大臣が夕霧に告げると、夕霧は形を改めて内大臣に向かい、
「亡くなられた祖母大宮様の御遺言も、内大臣を力と頼み申しあげるように、私は聞いているのでございますが、その後、雲井雁の事で、内大臣の機嫌を損じて怒りを招き私を御許し下さらず、見放されたような貴方の不機嫌の御様子に、私は遠慮して物を申すことが出来ませんでした」
 と返事をした。その折り雨風が急にひどくなり話はとぎれたまま二人は急いで帰途についた。夕霧は、どうして内大臣は何時もと違って、今日私に、雲井雁の事を許すような、そぶりにをしたのであろう、夕霧は絶えず心に思っている雲井雁の事であるから自分にとっては些細なことであるけれども、それでも大臣の一言が耳に残って、色々と考えることがあり一夜を過ごしてしまった。
 夕霧の雲井雁に対する多年の恋慕のせいか、頑固であったあの内大臣も、昔の厳しい態度も跡かたもなくすっかり弱くなっておとなしく下手に出て、正式な席を設けるということでもなく、それでも簡素な席でもないものを設けてと、彼は夕霧を招待しようと適当な機会を考えてみると、四月の一日頃に前庭の藤が大変美しく咲き乱れ、この世にない優雅な風景になることを思い出し、これを見過ごすことはないと、この機会に管弦の遊びの会を催し、夕霧を招待しようと、花が満開のときに夕霧と親しい息子の柏木頭中将を通じて口頭で夕霧を招待した。
「先日の極楽寺でお会いしたときは、よく話しも出来なくて物足らず思われましたが、あの雨風で御別れ申しました。御暇があるならば私の方へお越し下さいませ」
 と言わせて、文には

 わが宿の藤の色濃きたそかれに
       尋ねやは来ぬ春の名残を
(私の家の藤の花の紫色が濃い夕募方に、御身は私方を尋ねて、まあ、来ませぬか、春の名残を惜しみに)

 歌の藤のように綺麗な枝に文は付けてあった。内大臣が折れて出て、雲井雁を許そうと、夕霧を待ち受けていると夕霧は理解すると、この招待は夕霧を嬉しくさせ、胸の鼓動が自然と高くなった。直ぐに内大臣に承諾を返事して、

 なかなかに折りやまどはむ藤の花
       たそかれ時のたどたどしくは
(折らねば何事もないのに、折る場合は何処から折ればと考えてしまう、美しい藤の花を。夕暮時が、ほの暗くておぽつかないとすれば。(内大臣の御考が、おぼつかないならば、折るのか折らないのか、どうしてよいやらわからず、途方にくれまする))

 文に認めて、使いに来た親友の柏木に
「この返歌は君の父上のものに較べると残念な程、気運れしてしまっているよ。この歌の詞をお前が宜しいように書き直してくれ」
 と言う。柏木は夕霧を促して、
「さあ、一緒に行こう」