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私の読む「源氏物語」ー43-真木柱ー2

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立派な上の衣(抱)の下に表が白、裏が青味のある柳の下襲を着て。墨色の薄絹の指貫を着用して。(この装束は大将や検非違使別当が着るものである)そのように装束した姿は、近衛の右大将にふさわしく堂々として重みがある。
「玉鬘の夫として何と立派な姿であること」
 と、玉鬘の女房達は鬚黒を褒めるのを、玉鬘は鬚黒の北の方が離縁して里へ帰られた、と聞いて、これは私と鬚黒が原因と思うと情なく自然に身にしみて感じるので、式部卿宮邸へと堂々と出て行く着飾った鬚黒の姿を、見向きもしなかった。
 式部卿の宮に一言申したいと玉鬘の前から勢いよく出て行ったが、式部卿宮邸に行く前に我が家へ立ち寄る。木工の君達女房が鬚黒を迎えて、北の方の屋敷から退去した様子を鬚黒に語る。鬚黒はその話の中に娘の様子を聞くと、気強く聞いてはいたが、ぽたりぽたりと涙を流し始める鬚黒の姿はあわれであった。鬚黒は、
「さてさてこの自分は世間なみの男に似なくて、北の方の物怪が付いた姿をじっと我慢してこらえているのであうるが、その長年の間私は祈祷なども盛んにしたりして北の方には親切にしてきたつもりであるが、この私の気持ちを彼女は分からないのかなあ。全く、自分のことしか考えない男であれば、自分の妻が物怪の病で狂ったならばこのように今まで連れ添うているはずがまああるまい。私なればこそ、一緒にいたのである。ままよ。北方自身は、廃人となってしまったのであるから、父邸に帰ってもこの邸に居ても同じ事である。しかしあの子供達を式部卿の宮はどのように育てようと考えていられるやら」 と嘆くのであるが、あの娘が別れの悲しみを詠った紙を差し込んである眞木柱を見て、紙を取り上げ、幼い娘の筆使いながらも悲しい気持ちを察し、娘恋しい気分のまま車を式部邸に向かわせ車中で涙を流し北の方が里帰りをしているところへ訪れるが、北の方は鬚黒との対面を承知するはずがなく拒否した。父親の式部卿の宮が鬚黒に逢い、
「なあに。鬚黒殿はただ時の権勢に移って行くおもねる心をお持ちの方で、今度始めて心が変りなさるということでもないでしょう。長年の間、玉鬘に夢中でうつつを抜かしなさる様子は、噂に聞いてから大分たちますからねえ。いつか気が変わって玉鬘へ夢中な心が失せてしまい此方の北の方に心が向くのをゆっくりと待ちましょうか。娘をそなたの許に置いておけば、狂気じみた見苦しい物怪にかかっている娘を、君は一生見ることになりますから、今更娘と会うこともあるまい」
 と娘である鬚黒の北の方のことを彼に諫めることは当然のことである。鬚黒は、
「この度の娘さんの突然の我が家からの家出は大人げない気がしています。「妻が可愛いと思い、見捨てることはできない子供達もおりまするからと、里に帰ってしまうことなど考えても見ませんでした。私は呑気に思っていました。これは私が本心をよく打ち明けて話さなかった怠慢です、これはどう妻に話しても分かってはもらえないことです。ですから今はおだやかに腹立てず、私の過ちを許していただき、この後、私の行動が、妻が私の許から出て行くのも当然である。すべては鬚黒今回の行動が罪であると、世間の評判になってから、里に帰ってしまうように、身の処置をするほうがよいと思うのです」 などと北の方に言い訳をするのに困っていた。
「娘だけにも会いたい」
 と鬚黒が頼むのであるが、当然北の方は承知することはない。男の子供達だけを鬚黒の前に出して鬚黒に逢わせる。十歳になる太郎君は童殿上人として宮中に仕えている。大変美しい男の子である。顔などは言うほど良くはないけれども、勤めの評判がよくて、物事に慣れ気がきき物の分別も、時と共に段々わかってきていた。次の八歳になる次郎君は可愛らしく姫君と間違うほどの優しい姿であるので、鬚黒はかき抱いて頭を撫でながら、
「お前は本当に姉姫によく似ていること」
 と言って涙ながらに次郎君に話しかける。式部卿の宮にも女房を通じて対面申したいと様子を伺わせるが、
「風も冷たく用心をしているのでお目にはかかれません」
 と断られたので鬚黒はきまりが悪い思いで式部卿の屋敷から退散した。
 男の子供達を車に乗せて、玉鬘の居る六条院にはとても子供連れで行けないのでいったん我が家に帰り子供を車から降ろして、子供達に向かって、
「お前達はこの屋敷にいるのだ、私が逢いに来るから心配をしないで」
 と告げる。
 子供達は父親の鬚黒を事態の見極めが付かないぼんやりとした顔で玉鬘のもとへむかう父親を見送っていたが、その姿がいじらしいので鬚黒はまた新たに心の中に反省の気持ちが表れるのであるが、玉鬘のあの若々しい女の魅力と、物怪に取り付かれた老いの色が現れてきた北の方を思い較べてみると、玉鬘を抱くと玉鬘の色気がすべての苦悩を追い払ってくれるような気持ちになるのであった。 その後、鬚黒は式部卿の宮の許にいる北の方に逢うこともせず、先に訪問した折の式部卿宮のあしらいが軽かったことにかこつけて来訪しないのを、式部卿宮はひどい男だと思い嘆いているのを紫の上が聞き、
「鬚黒が恨まれるはまだしも私まで鬚黒の北方に恨まれる理由になる事が面倒な事よ」
 と全く関係のないことで恨まれるのを源氏は気の毒に思い、
「鬚黒の事は面倒な事である。玉鬘には実父の内大臣がおられるので、自分の考え一つにもならない玉鬘が入内しなかったということのために、冷泉帝も私を気の利かない者と思っておられる。また螢兵部卿宮なども、あれほど玉鬘に言い寄られ玉鬘もその気になっていたのを鬚黒に取られたと、私を恨みなさるようである。それでも私を恨みなさるとはいっても、螢兵部卿宮は、思慮深い方なので、玉鬘が鬚黒に嫁したのは私の考えだけではないと聞いてはっきり諒解し、私に対する恨みはなくなったようである。自然に男女の仲は、隠していると二人では思っている事でも、隠しようもなくすっかり現われるものだから、私達にはそなたの姉上の北の方に恨まれ、螢兵部卿宮に恨まれるような罪なことは何もない、と私は思っていますよ」
 と紫の上に慰め方々自分の気持ちを言うのであった。
 このような、髪黒の北方の離縁や、北方の紫上への恨み、螢兵部卿宮の源氏への恨みなどのごたごたに、尚侍の君である玉鬘の気分は、益々暗く重くなるのを、鬚黒大将は玉鬘を気の毒に思い、 
「尚侍になった御礼申し上げに、玉鬘が参内しようとしたのを、私が玉鬘と情を交わしたことによって中止になったので、結局の所私が玉鬘の参内を妨げたことになり、冷泉帝も、玉鬘の色香に望みを持っておられたので、私のことで玉鬘参内の妨げとなったのは無礼であり、かつは、私が帝が玉鬘に執心していることを知って参内させぬように、考えられ、源氏、内大臣も私が玉鬘の参内を妨害していると思っているようである。宮仕え人を妻としている男は自分だけではない」
 と鬚黒は考えて、年が明けると玉鬘を内裏に参内させた。