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銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第六部

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第十四章 東京へ

 最初の停車駅である旭駅を出る頃には、すっかり夜になっていた。辺りは家も少ない場所。特急しおさい14号は、真っ暗な中を走って行く。時々、明るくなったかと思えば、それは通過駅か沿線のパチンコ屋。
 そんな中を列車は進み、八日市場駅や横芝駅、成東駅に止まったり、あるいは小さな駅を通過したりして、ようやく八街駅までたどり着いた。目の前には駅名票が。それをスマートフォンで撮影し、その画像を例の学生時代の同級生にメールで送った。それを見たそいつは、きっとこう思うだろう。
〈だから何だよ!〉

 銚子へ行く時は何だか駅と駅の間が長く感じたけれど、銚子からの帰りは不思議と短く感じる。八街駅を出てしばらくすると、暗闇の中から成田線の線路が現れた。その線路を目でたどっているうちに、列車は佐倉駅に着いた。辺りは闇の中だけれど、佐倉駅は心がほのかに温まるようなやわらかい光に包まれていた。そんな佐倉駅を出ると、そこからは複線になる。そのためなのだろうか。心なしか、さっきよりも列車のスピードが上がった気がする。
 気がつけば、いつからか街も賑やかになってきた。沿線で光を放っているのは、パチンコ屋だけではなくなった。往路で乗った、特急しおさい1号の停車駅だった四街道駅は通過。温かな光を放つ住宅街を行くと、列車は千葉駅に到着した。しばらくの停車の後、また特急しおさい14号は、東京駅へ向かって動き出す。さっき、外川駅から列車が発車する時もベルが鳴ったけれど、この千葉駅でもベルが鳴る。メロディは鳴らない。そんな駅も、JR線ではすっかり珍しくなった。
 ここからは緩行線も沿って走る。ここからは快速列車さえ追い越せばいいので、列車の走り具合にも、より一層、力強さが増す。まさにラストスパートだ。見る見るうちに駅を過ぎ、あっと言う間に船橋駅に着いてしまった。
 本当ならば船橋駅で列車を降り、緩行線と東西線を乗り継いで行徳という街に行こうかな、とも思った。そこに銚子や中山競馬場へ行った帰りによく寄っていた居酒屋がある。そこに行きたい気分でもあった。しかし、いつからか出先で飲んで帰ることが面倒になってきた。今では、なるべく地元で飲むという人間になってしまった。それに、明日は所沢で〝相棒〟と一席設ける約束をしている。今日も少し飲んで帰るつもりだけれど、飲み過ぎてもいけないので、それは地元で。
 船橋駅を出て、ぼんやりと窓の外を眺めていると、気がつけば江戸川を渡って東京都に入っていた。もういくらもしないうちに、錦糸町駅に着く。そろそろスカイツリーが見える頃だ。窓の外を見て探してみると、それは右前方にあった。何かを語りかけているような、静かで優しい光を放ちながら。
 錦糸町駅を出て、地下に入るともうすぐで東京駅。周りの人々も、降りる支度をし始めた。馬喰町駅と東日本橋駅を通過し、特急しおさい14号は、長い旅路を駆け抜けて東京駅に到着した。列車を降り、エスカレーターを二つ上って改札口へ行く。すぐ目の前にあった喫煙所で一服する。いつもならば我慢できないタバコも、なぜか今日は難なく我慢できた。昔はタバコを吸いたくて、列車の中でもがいていたこともあったのだけれど。
 久々の一服を終えてコンコースを歩く。時々、何かしらのイベントが行われているけれど、特に今日は何もなく。そんなコンコースを歩いてノ内線乗り場へ向かうと、もうすぐで池袋行きの列車が来るようだった。


第十五章 ラストスパート

 プラットホームにたたずんでいると、池袋行きの列車がやって来た。混んでいるのだろうなあと思えば、そうでもなかった。座って池袋駅まで行ける。
 駅に止まる度に、人が入れ替わる。その様子をぼんやりと眺めているうちに、御茶ノ水駅を過ぎ、さらに走って後楽園駅に着いていた。列車の中から後楽園ゆうえんちや東京ドームを見てみる。時季柄、さぞかしイルミネーションが綺麗だろうなあと思えば、そうでもなかった。
 列車は、一度、地下に入ってまた地上に出る。車内から小石川の車両基地を見てみる。すると、薄明かりに照らされてあまり見慣れぬ電車が止まっているのが見えた。銀座線の新型車両、〝1000系〟だった。周りの丸ノ内線の電車はみんな銀色なのに、〝1000系〟だけオレンジ色。異彩を放っていた。銀座線には滅多に乗らないので、〝1000系〟にも、まだ乗ったことがない。さて、どんな電車なのだろうか。今度は銀座線に乗りに行こう。
 茗荷谷駅を出て、新大塚駅を過ぎると終点の池袋駅。後は西武線に乗るだけ。旅も終盤に差し掛かっている。今日は思いもよらない山登りをしてしまった。それも、よりによって散歩気分で。だから、すっかり疲れてしまった。先に発車の急行列車や準急列車に乗って早く帰るよりも、少し待って確実に座れる特急列車で帰った方がよさそうだった。なので、あらかじめここまで来る間に、スマートフォンで所沢駅までの特急券を予約しておいた。7時半に発車する西武秩父行きの特急ちちぶ35号に乗る。
 券売機で特急券を受け取ったけれど、まだ列車までに時間がある。切符売り場の近くに喫煙スペースのある喫茶店があるので、そこに入ってみた。しかし、禁煙席まで満席という始末。ここは諦めて、他でタバコを吸うことにした。
 昔は駅のすぐ目の前に喫煙所があったけれど、今では横断歩道を渡った先に移動してしまった。面倒だなあと思っていた矢先に、喫煙所の近くにある信号が青に変わった。急いで渡り、喫煙所に駆け込む。きらびやかな池袋の街。辺りは人でごった返している。それは喫煙所も同じ。人にぶつかったりぶつかられたりしないように注意しながら一服して、また信号を渡って駅へ戻る。
 まだ列車は来ていないようだったけれど、改札口を通ってプラットホームで列車を待つことにした。時間もあるので、トモニーでお茶や缶チューハイ、つまみのバターピーナツを買った。それでも時間がある。カメラもしまいこんでしまったので、電車の写真を撮ることもできない。出入りする電車を眺めているだけ。
 向こうの1番・2番ホームに、折り返しの鈍行がやって来た。これで特急列車乗り場とその前にある七番ホーム以外に列車が入線していることになる。その全ての電車が〝30000系〟という新型車両だった。新型と言っても、第1編成が登場してから五年ぐらいが経つ電車。正面のデザインが笑顔に見えることから、〝スマイルトレイン〟の愛称を持つ子ども達の人気者だ。それが全ての乗り場に並んでいるというのも、黄色い電車を見て育った人間には異様な光景だ。
 その異様な光景を眺めていると、7番ホームに列車の通過を告げる案内放送が入った。この駅の特急列車乗り場は、7番ホームの奥にある。なので、特急列車乗り場に入線する列車は、7番ホームを通過するという変わった構造だ。そこを通過して行ったのは、普通の〝ニューレッドアロー〟だった。この時間に池袋まで来る人は少なく、車内はほぼ空席状態だった。