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Who cares ?

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#04 後ろ髪を引かれる別れ方はしない





 臨也の殺しきれなかった嗚咽は静雄を責め、深紅の双眸から零れる雫が静雄の心をざわつかせた。ぷつりと頭に来たからといって、押し倒して自分は一体どうしたかったというのか。答えはもはや闇の中。押し倒した瞬間からいやいやと抵抗されていた時の方がまだよかったような気がする。其方の方が口が動くままにどうにかできたような気がした。
 しかし、静雄が臨也の事を慰めることなどそう滅多にあることではない。だから果たしてそれで上手く行ったかどうかは読み切れない。難しいだろうが、だが今よりもずっとマシだ。
 これでもしどうしてと臨也に訊かれてしまったら、静雄は堪らなかった。静雄だとて、どうしてこんなことになってしまったのか分かりやしない。寧ろ此方が教えてほしいくらいだった。
「臨也」
 既に臨也には顔を背けられていた。硬く瞳を瞑られて、更に拒絶される。その反応に臨也の両腕を縫い留めていた静雄の手は無意識の内に更に力を込めていた。白く、細い手首が軋む。倒される前までシーツを硬く握っていた臨也の指先は、今度は自らの掌に爪を立てていた。
「――ッ!」
 どうすればいい、と考えてしまうことがまずいつもらしくなくて、眩暈がしそうだった。だが、兎に角静雄は臨也の双眸から零れる涙を見たくなかった。静雄は片手を縫い留めることを止め、暴力と破壊を繰り返してきた手で臨也の頬に触れた。
 手加減の方法など知らない。だから、いつだって他人を傷つけるばかりだった。
 優しい触れ方など知らない。だから、いつだって自分まで傷つけるばかりだった。
 温かく、そして舐めれば塩辛いだろう涙で濡れた頬を拭う。ひくり、と臨也の喉が引き攣れた。
「シズちゃ……、……いた……い」
 のろのろと瞼を開けながら、まだ若干濡れている瞳が此方を向いた。静雄はそのままぐいぐいと頬や眦を擦る。
「ちょ、やだ、シズちゃん……!そんなに擦んないで!」
 元から昨晩のことのせいなのか、赤みがかっていた眼元が更に赤く染まっていった。力の制御が上手くない静雄がやればそれは当然の結果だった。
 静雄は擦ってしまえば後で其処が赤くなるということに気付かなかった。いや、そこに気を回すほどの余裕などなかったし、ただただ彼は苛々の根源を消したかっただけなのだ。
 すると、何かがひゅんと横から勢いよく静雄に向かってきた。静雄はそれを反射的に止める。ぱし、とよい音が立って、静雄の掌に受けとめられたのは、静雄が臨也の涙をどうにかするために解放した臨也の片腕だった。チッ、と静雄の腕の下から舌打ちが聞こえてくる。
「いーざーやくーん?」
 静雄にしてみれば己の施しに対しての臨也の行動による返答に腹が立った。自然といつものように低い声音が出る。受けとめた細腕は再びシーツの上に縫い付けられた。
「止めろって言ってるのが聞こえないのかなぁ、シズちゃん。それとも何、言われたことが分からないくらいの単細胞になっちゃったのかな?」
 ぎりぎりと強まっていく手首の締め付けに臨也は顔を顰めつつも、口は達者に反撃に転じた。
 先ほどから変に強がったと思えばしおらしくなり、弱くなったと思えばこうしてまたべらべらと五月蠅く棘のある言い方をしてくる臨也は酷く不安定である。
「ぎゃあぎゃあうぜぇんだよ、ノミ蟲野郎!」
「ちょっと、責任転換するの止めてくれる?!」
「うるせぇ!」
「だからこっちはいい加減放せって言ってるだけだろ!」
 臨也は柳眉を逆立てる。
 そして、次の瞬間静雄の鎖骨付近に痛みが走った。反射的に静雄は手を上げる。派手な音が部屋中に響いた。
「ったぁ……」
「あ……」
 打たれた臨也は痛そうに顔を顰めてベッドに転がった。そうして静雄はやっと何が起こり、何をされたのか理解する。
 両腕を静雄に拘束されてつかえない臨也が、上体を起こして静雄の鎖骨に噛みついたのだ。おそらく解放を訴える抵抗。それに対して、静雄は最早条件反射の如く自分に向かった攻撃を与えた人間に反撃した。躯が勝手に反応してしまっていた。
 殴ってしまってから、静雄ははたとする。
――そう言えば、こいつの躯……。
 どうしてそこで考え込んでしまったのだろう。相手に掛ける情けなどないはずなのに。
 どう考えたって不調なままの臨也を今こうして組み敷いているのであれば、きっとあっという間に殺してしまえた。だがどうしてか、いつもいつも殺すと思っている相手の首に静雄は自分の手を掛けることができなかった。この、細い首に触れることさえできない。触れているのはそれよりも細い両の手首だけでいい。簡単に折れてしまいそうなそこだけでいい。普段から自動販売機に標識、コンビニのゴミ箱をぶん投げて当てて置きながら、何を今更と思われるだろう。静雄だとてこの感情が分からない。わからなくて、酷く苛々とする。
 彷徨わせていた視線を下ろすと、瞳にいつものように食えない色を戻らせつつある臨也と目があった。
「何を考えてるのか知らないけど、あんまり考え込むと熱でも出すんじゃないの?」
「うるせぇ」
 もう何やら色々と億劫になって、静雄はあっさりと臨也の拘束を解いて、跨っていた臨也の上からも退いた。
 突然のことに臨也がきょとりと瞬く。
 そこからさきにもし何かまた追及されてしまっては十中八九また静雄は臨也を縫い付けるだろう。それがいやで静雄の方が先に口を開いた。
「次会ったら殺してやる」
 静雄は再び煙草に火を付けながら、臨也に背を向けた。言外にもうこのまま帰れと伝える。臨也は暫くそのままでいた。
「絶好のチャンスをみすみす見逃した君にできるのかな? ふふ、まあできるかどうかは楽しみにしておくよ」
 じゃあね、シズちゃん。
 そう言って臨也がベッドから降りて立ち上がる気配がした。静雄はそれ以上何も返答しなかった。
 振り返って吐きだした紫煙の向こうで、丁度部屋のドアが閉まるのが見えた。






(20100207-20100225)  fin.
お読み頂きありがとうございました。
作品名:Who cares ? 作家名:佐和棗