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みやこたまち
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退空哩遁走(同人坩堝撫子3)

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三 ストーカー



 トンネルは終わらなかった。既に、女から逃げているのか、女を探しているのかすら分からなくなっていた。あれほど見てきた女の顔を、思い出そうとしても思い浮かんでこなかった。それはそうだ。男は観念の中の女を求めてきたわけではなかったのだ。それはいつも現実として存在しており、その限りにおいて男には見えていたのであるから。
 だが今男は、狂おしい程の飢えに喘いでいた。トンネルは尽きず、女は見えず、命は続いている。男は初めて立ち止まった。しつこく追いすがってきていた鋭い刃は、その時攻撃を止めた。剃刀の刃が無数に吊るされた通路は、動けば切られるが、止まれば傷つかない。そんな仕組みだ。男はしばらくぶりで、ただ一人の時間を得た。そして、これまで忘れていた自分自身との対話を余儀なくされたであろうか? 否。男は内面というものを失っていたのだ。そこには反省も自問も無い。今男が感じているのは不安だけだった。それは飢えからくる不安だった。
 前方にほんのりと枝道が見える。男はそこに入っていった。道は行き止まりだった。その突き当たりに体を押しつけるようにして、男は丸くなった。それから本当に久しぶりに眠ったのだった。そして当然のように夢を見た。夢はさび付いていて、人の形をしたものは一片たりとも登場しなかった。(第三回 完)