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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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宗教のおばちゃんにあげたもの。

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お母さんに言われていたことがある。
“宗教の人たちは全く欲がなくて、最低限の生活をしていて、人によっては服は貰い物を着る人もいる。そんな人たちだから、何でもあげると喜ぶから、そういう物があったらあげてね。”
と言われていた。

でも私の所へ来ているおばちゃんの服は派手だと思う。
ジャケットは光沢が入っていて高そうだし、靴も良い物を履いてるんだろうなぁと思わせるようなちょっとヒールの高いものだったりする。
貰い物には見えない。
おばちゃんの体に全てピッタリと合っている。
お母さんの言い分が何処まで正解なのか…。

そしてズッキーニが出来たのでそれをあげようと思った。
お母さんもどんどんあげて~と言うからそれが正しいのだと思った。

おばちゃんが来る前に、ベランダの食べ頃になったズッキーニを一本はさみで切った。
長さにして三十センチ近くある。
ベランダから部屋に入って、網戸を閉めていたら、
『バイバ~イ。』
と聞こえた。
私は振り向いて、何事かと声がした所を見たら、成長途中のズッキーニ二本がお別れの言葉を私の持っているズッキーニに言っていた。
言われたズッキーニを見たら、
『バイバ~イ。行ってくるね~。』
と返していた。
なんだこりゃ~と思いながら、一応私も成長途中のズッキーニに意味も分からず会釈した。
網戸を閉めて、首をひねりながら離れ離れにしちゃいかんのか…と思ったので、おばちゃんにあげるかの躊躇が起こり始めた。
そんな私に持っているズッキーニから、
『気にしないで。大丈夫。おばちゃんの所に行くよ。』
と言われた。
腑に落ちないながらもそのズッキーニの言い分に従うことにした。
もしかしたらおばちゃんはズッキーニを見た時に、何かを思うんじゃないかという予感が過り始めた。
そう思うと私はワクワクして来た。
おばちゃんが来るのが楽しみになった。
ズッキーニは袋に入れて用意をしておいた。

そして、おばちゃんがいつもの時間に登場した。
ワクワクが止まらなかった私はいつも以上に笑顔で扉を開けた。
部屋に入ってコーヒーを出して、
『ベランダで出来たズッキーニなんですけど、ズッキーニ好きですか?』
と聞いたら、
『まあ、ズッキーニですか!!大好きですよ。』
とおばちゃんが喜んで言った。
私は良かったと思うと、
『これどうぞ。食べてください。』
と笑顔でおばちゃんにあげたら、
『はい。』
と当たり前のように答えると、袋を掴んでテーブルに置いた。
…それでおしまいだった。
せめてズッキーニの心の声を神からの霊感で感じるくらいはあると思っていた私は、ショックのあまりその場に突っ立っていた。
しかも、“ありがとう。”の一言はいつまでもなかった。
そして私の笑顔は消えていった。

二時間の勉強が終わって帰る時に、
『本当にこのズッキーニ頂いていいんですか?』
と聞かれやっと今お礼が来るのかと思った私は、笑顔を取り戻し快く返事をした。
そしておばちゃんは、
『では頂いて行きますね。ではまた来週。』
と言って帰って行った。
私は腑に落ちないまま終わった。
一切何も言ってくれなかった。
がしかしまだお母さんの言い分を信じていた私は、お母さんが言っていたことを守ってるからいいのだろうと思った。
でもそう思った私には笑顔はなかった…。

お母さんにそのことを伝えると叫び声が聞こえた。
『そんな人はやっぱりいないよ~。その人何様のつもりなんだろう…。でもそんな人はこの宗教にはいないはずなんだけど…。』
とお母さんは困っていた。
私はもっと困る。

私は基本、玄米を食べている。
その話をおばちゃんにしたら、おばちゃんも玄米が好きだと言う。
なので次の勉強の時に玄米を用意しておいて、おばちゃんに玄米を二キロくらいあげた。
その時は、
『まあ、こんなに玄米を頂けるんですか?!ありがとうございます。』
と言われた。
ちゃんとお礼を言えるようだ。
もしかしたら、ズッキーニについては、私がズッキーニが喋ったという話(タイトル;“ズッキーニが喋った…。”と“宗教のおばちゃんとの勉強~ズッキーニの話~”を参照)をしていたからかもしれない。
それでサタンや悪霊やらを思ってお礼を言えなかったのかも…。
それなら納得?!していいのか分からないけど、一応納得。
そういうことならあげなければ良かった~。
逆に迷惑をかけてしまう。

玄米をあげた次の勉強の時、おばちゃんは部屋に入るといつも右側に行く。
少しキョロキョロしながら行くこともあるけど、その日は部屋に入るなり思いっ切り左を向いて扉の所で止まった。
なぜなら、左の壁に玄米の袋を立て掛けているからだ。
それを見ておばちゃんは、
『まあ、これは玄米ですか?こんなにたくさんあるんですね!!』
と何故か輝いて言った。
『あっ、…はい…。』
と私は返事をした。
でも何故だろうか…。
おばちゃんのそのちょっとの一連の動作が怖かった。
部屋に入って玄米があるかを確かめもせずに、直球で玄米を見てそう言った。
玄米があそこにあると覚えていたんだ…。
お母さんに宗教の人たちは欲がないと聞いていたから、おばちゃんのこの行動はそれに反するんじゃないかと思った。
もろに欲が前向きな気がした。
それとも宗教的に意味のある行動なのか…。
私には分からないけど、怖いと思ったのは確かだった。

そしてズッキーニをあげた次の勉強の時に、おばちゃんは部屋に入って来て座ると、
『ベランダにはまだズッキーニはあるんですか?』
と輝いた笑顔で聞いてきた。
私はその輝いた笑顔にゾッとした。
私は出来る限りの笑顔で、
『はい、まだあります。…まだ育ってる最中です。』
とは答えたけど、何故か答え間違ったかとも思った。
おばちゃんはその答えに嬉しそうな顔をして、
『先週頂いたズッキーニ食べましたよ。とても美味しかったです。あなたも食べましたか?』
と聞かれ、
『はい、炒めものにしました。』
と答えると、
『まあ、私もソテーにして頂きましたよ。あんなに大きな物を頂いてもよろしかったのでしょうか。また出来るのが楽しみですね。』
とおばちゃんは輝いたままそう言った。
私は一応返事をした。
もしかして私の小さな畑をあてにしているんじゃ…という思いが過った。
お母さんから聞いていた話と違うじゃないか!!

そのことをお母さんに伝えるとまたビビっていた。
そして、
『もう、そのおばちゃんにいろいろあげなくていい。』
と言われた。
なのでそれ以来おばちゃんに何かをあげてはいない。

とこんなことを書いたけれど、おばちゃんの思いを直接本人に確かめたわけじゃないから、私の憶測にしか過ぎないのも事実だ。
おばちゃんは全くこんなことを思っていなかったのかもしれないのだから…。