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銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第二部

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第四章 旅に出る

2014年12月21日
 結局、大晦日に行くつもりだった銚子への旅は、少し前倒しして12月21日に行くことにした。残酷なほど淡々と過ぎて行く日々に嫌気が差し、だいぶストレスも溜まっていた。今年ももう残り少ないけれど、そんな日々が少しでも変わればと思っての前倒しだった。
 本当は20日に行くつもりだった。しかしながら、その20日は、かなり早い段階から雨の予報が出ていた。雨の日の旅は楽しくない。切符も当日に買うのだからと、3日ばかり延期して、祝日の23三日に行くことにした。ところが、21日の天気は、まあまあという様子だった。予定が二転三転してしまったけれど、21日に銚子へ行くことにした。
 あのひとを想う旅が、始まる……

 早朝の所沢駅前。辺りはまだ暗闇の中。駅舎だけが、その中で輝いていた。改札口へ行く前に、駅のファミリーマートでタバコや缶チューハイを買い込んだ。その缶チューハイを、店の向かいで飲んで景気づけ。まだ六時前だけれど、久々の旅なので。
 景気づけと一服を終え、エスカレーターを上って改札口へ向かう。3年前に使用開始された所沢駅の駅舎も、初めは違和感だらけだった。洗練されたデザインの駅が、どこか知らない街を走る新しい路線の駅という感じだった。しかし、ほぼ毎日、この駅を使っているうちに、その〝違和感〟が〝当たり前〟になっていた。
 所沢駅からは、池袋行きの特急むさし号で池袋駅へ向かう。これから乗るのは、池袋行きの特急むさし62号という列車だ。今はあらかじめ特急券をインターネットで予約しておくことができる。便利になったものだ。切符売り場の券売機で予約してあった特急券を受け取り、改札口を通ってプラットホームへ向かう。
西武池袋線と西武新宿線という西武鉄道の二大路線が乗り入れており、〝西武鉄道の要衝〟というこの駅。コンコースも広い。そこには、〝つけ麺TETSU〟とか、〝タリーズコーヒー〟などといった、名の知れた店もある。その〝タリーズコーヒー〟には、小さいながら喫煙スペースもある。所沢駅の改札の中では唯一タバコが吸える場所だ。
 エスカレーターを下りた先のプラットホームは、それほど昔と変わっていない。特急むさし62号の時間まで、あと10分ほど。所沢駅を行き来する列車の写真を撮って時間を潰す。最初にやって来たのは、東京メトロ有楽町線直通の新木場行きの普通列車だった。その後から来た池袋行きの急行列車や準急列車、あるいは新宿線の列車などを撮影する。そのうちに、発車案内の電光掲示板には、次の列車として池袋行きの特急むさし62号が表示されていた。
 西武線の特急列車には、〝ニューレッドアロー〟という愛称がある。丸みを帯びた優美なスリートーンのグレーの車体に、赤い帯が入っている。異色の存在として、1995年に引退した初代〝レッドアロー〟の色を再現した〝レッドアロークラシック〟というものも、1編成だけ走っている。クリーム色の車体に赤い帯が入っているそれは、角ばった感じの初代とは違う形の車体にその色が塗られている。それに違和感を覚えなくもない。それでも、とても懐かしい色。パッと見た時には、まるで初代が走っているかのような錯覚に陥る。さあ、今日はどちらに乗れるだろうか?
 列車の到着を告げる案内放送の後、遠くの暗闇の中から、ヘッドライトをギラギラとまぶしく輝かせて特急むさし62号がやって来た。少しずつ、その美しい車体が見えてくる。クリーム色に赤い帯。〝レッドアロークラシック〟だった。久々の旅。その第一走者としてそれに乗ることができるとは、何とも幸先がいい。
 定刻通りに所沢駅を出た特急むさし62号。前から2両目の6号車に指定された席がある。この6号車には、僕の他に乗っているのは一人だけ。その人の真後ろの席だったので、他の空席に座った。
 行く先に見えるのは、まるで山脈のような大きな雲。その奥には、朝焼けが赤々と燃えている。あのひとに見せてあげたい朝焼けだった。
 住宅街の中を走り、通り過ぎた清瀬駅。そこには、東急電車が止まっていた。東京メトロ副都心線を介した東急東横線との相互直通運転が始まって、もうすぐで2年が経つ。それなのに、見慣れた景色の中を東急電車が走っているというのが、未だに不思議で仕方がない。この〝不思議な光景〟が〝当たり前の光景〟になるまで、もう少し時間が必要かも知れない。
 その先、ひばりヶ丘駅で先に所沢駅を発車していた準急列車を追い越す。さらにその先の畑の中にある大きなカーブを曲がると、保谷の電車置き場の横を走る。この電車置き場は元々、〝保谷車両管理所〟という名前の車両基地だった。列車の本数が増えたことと編成が長くなったことで手狭になったため、車両基地としての機能が他へ移転された。それにより、今ではただの電車置き場になっている。
 その電車置き場は、僕の身近な所にいる元西武電車の整備士が、その鉄道員人生をスタートさせた場所だった。その頃は、〝保谷検車区〟という名前だったようだ。僕も彼に憧れ、西武電車の整備士を目指していた。しかし、ちょっとした〝くだらない持病〟のせいで、その夢は断念せざるを得なかった。その決断は、これまで生きていた中で一番苦しくて悔しいものだった。
 電車置き場の隣にある保谷駅を過ぎると、東京23区に入る。それでも、練馬区という都心部の区に比べたら牧歌的な区なので、畑も多い。畑の中を走って、列車は23区に入ってから最初の駅である大泉学園駅を通過する。この駅の発車メロディは、アニメ映画、『銀河鉄道999』テーマソングを編曲したものだ。これは大泉の街に東映などの映画会社が多いためらしい。2009年からそのメロディになっている。
 発車メロディが変更されたとほぼ同時に、電車の方でも〝3000系〟という通勤型電車に、その映画のキャラクターの絵を描いたラッピング電車が走り始めた。昨日、そのラッピング電車のラストランイベントが行われた。その電車の引退により、30年近くに渡る〝3000系〟そのものの歴史にも幕が閉じられたことになる。ここ10年でガキの頃から当たり前のように走っていた電車が相次いで引退している。残念な話だし、黄色い電車ばかり見ていたので、銀色の電車に置き換わるのが何だか不思議な話でもある。
 大泉学園駅を過ぎると、線路は下り線だけ高架橋になる。それから上り線も高架橋になると、石神井公園駅を通過する。年明けには上り線も完全に高架橋になる予定らしい。それにより、西武池袋線の高架化工事は全て完了することとなる。僕がガキの頃から行われていた工事なので、完成までに20年近い時間を要した。
 石神井公園駅から先は複々線となる。高架橋に上がってからは視界が開けるため、遠くの朝焼けがより一層よく見える。まるで列車はそれに向かって走っているようだ。うるさいぐらい力強いモーター音を響かせて、列車は一路、池袋へ向かって快走する。