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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十話

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 そう言いながらも、さりげなくバチッとその男にも止めを刺す中司さん。
 そういえば、快君はどこいったんだろうなーって、それを見ないフリをしながら思っていると、当の本人の声が響いた。

 「みんな、こっちこっち、早く早くっ!」

 先程やって来た道とは別の通路へとつながる道の所で、快君が飛び跳ねながらオレたちを手招きしている。

 いつの間に、とか思ったけど、快君の要領のよさは先刻承知済みだったので、考えるより先にオレたちは、その広場を後にするのだった。



 そしてその後。
 さっきの従業員の人が近付くなと言っていたバスでここにやって来た奴らは、どうやら同じような黒い服装をしているらしいことが分かった。

 ジャージや、作業服やスーツなど、様々で。
 だから黒いジャンパーを着ているオレが従業員の人たちに勘違いされたのだと、少し納得する。
 見かけたら、とりあえず逃げる、ということにしてオレたちは進む方向に気を使いながら、白壁の道を進んだ。

 すると、今度は比較的すぐに、別の広場に辿り着くことができた。
 そこは、さっきの申し訳程度の花壇があった広場とは比べられないほどの何種類もの花々が咲き誇る、庭園のような所だった。

 ここの従業員が手入れをしているのか、それは一種の芸術品のように整然としている。


 「……そろそろ、捲いたかな?」

 思えば、今日は歩き通し、走りっ放しだった。
 少し休憩しようという意味も含めて、オレはそう呟く。

 何となく目が合った少女の瞳は、外見の白さと対比するような深い色をしていた。
 夢では雨に隠れ、しっかりと見ることのできなかった朱色の滲む黒い瞳。


 「……」
 「あ……えと」

 オレは、彼女の瞳から目が離せなくなっていた。
 彼女も視線を外そうとしない。
 と。

 「もしもーし? 生きてるー?」
 「……はっ」

 目の前を遮断するように中司さんの手のひらがひらひらと横切った。
 それによってもう一度我に返ったオレは、そう言えばまだ名前も名乗っていないのに気付く。

 「あ、ええと。さっき思わず助けちゃったけど、大丈夫だった?」

 でも、オレの口から出た言葉は、そんな言葉だった。
 上擦ったままの、いかにも慣れてない人の会話だ。
 さっきの人達とは知り合いとかじゃないよね? という大丈夫と、怪我とかはない? という意味の大丈夫が、一緒くたになってしまう。

 「あ……はい、だいじょうぶです。助けてくれてどうもありがとうございます」

 しかし、彼女はオレの真意をちゃんと汲み取って、ぺこりと頭を下げてくれた。
 それを聞いてほっとする。
 とりあえず先走った勘違いでなくて良かった。

 
 「それじゃ、まず自己紹介だねっ。ボクは麓原快、日央大一年。超研サークルに所属してまーす。今日はサークルの課外活動でここに来てるんだ」

 快君は両手を後ろ手に組みながら、誰にでも変わることのない笑みでそう言った。
 先を越されたことにちょっぴりダメージを受けながらも、今度はなるべくクールさをアピールしつつ、オレや中司さんもそれに続く。

 「同じく日央大一年の、永輪雄太です。大事がなくて良かったよ」
 「私は中司由魅よ。よろしくね」

 三人が順々にそう言うと、少女ははにかみながら答えてくれた。

 「あ、ええっと、わたし、三輪まどかって言います。よ、よろしくです」

 そうか、まどかちゃんって言うのか…もちろん初めて聞いたわけだけど、何だかすんなり入ってくる感じだな。

 何というか、見た目の神秘性とは裏腹に、ずいぶん舌っ足らずな声で。
 逆にそれが彼女の人となりというか人間性を表しているのではないかという気がしないでもない。

 しかし、それよりも。

 
 「三輪……だって?」
 「ひょっとしてあなた、ここを作った人の関係者?」

 決して珍しい名字でもないが、ここまでくるとまずそう言う考えが浮かんでくるのがお約束だろう。

 「はい、そうですけど」

 言葉尻には心なしか沈んだような声色が含まれたが、中司さんはそれを聞いて満足したようだった。

 「じゃあ、教えて欲しいのだけど、黒陽石ってどこにあるか知っていて?」
 「黒陽石……ですか?」
 「うんっ、黒陽石。ここのオーナーの隠し財産なんでしょ?」

 中司さんに続くように快君は嬉しそうに言葉をつなぐ。
 すぐに思い浮かばなかったのか、んーんー唸ってしばらく考え込んでいたまどかちゃんだったけど、やがて何かを思い出したらしく、顔を上げて言った。

 「……黒陽石かどうかははっきりしないんですけど、この遊園地には宝箱がいくつもあって、その中に入っている地図には本当の宝物のありかが書かれているって聞きました」
 「それ! どこにあるか分かるかしら?」

 表情に灯りがついたかのように、嬉しそうに意気込む中司さん。
 そう言えば中司さんて、古代の産物とか遺跡とか、そう言った類のものに目が無かったっけって思い出す。
 ちょっと盲目的かなとも思うけど、怒っているよりはいいかな、多分。

 「あ、はい。宝箱なら見かけたことがあります。この辺りはお花のお手入れのためによく来るから……」

 そうか、この花壇はまどかちゃんが手入れしていたのか。何だか絵になるなあ。

 「さっきのおじいさんも、そんなこと言ってたよね、やっぱり本当なんだっ! じゃあ、案内してもらってもいい?」

 探し求めていた物に、確実性が増してきたせいか、快君はかなりハイテンションだった。
 かく言うオレも、さっきからテンションが上がりっぱなしなのは自覚してはいる。
 
 まどかちゃんと話していると、楽しかったり、嬉しかったり……そんなプラスの感情が、どんどん溢れ出てくる。
 こういうのもカリスマ性があるって言うのかどうかは分からないけれど、不思議な魅力を持った子だなと思った。

 「くすっ。それじゃ、ついて来てください。本当は自分で探してこそのアトラクションなんだけど、さっき助けてもらったし、特別ですよ」
 「うん、お願いするよ」

 まどかちゃんの花咲いたような微笑みを受け、ますます気分良くなったオレはそう言うと。 早速まどかちゃんの後について、宝箱を見かけた、という場所へと向かうのだった……。

 
             (第11話につづく)