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Spiral HERO~ヒーローは螺旋階段の上で音階を奏でる

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「Spiral HERO~ヒーローは螺旋階段の上で音階を奏でる~」
山田→大島(一周)
○ヒーロー
○ヒロイン
○悪い人
○ランバージャック

【0】ヒロインが一歩、また一歩、螺旋階段を登っていく。
悪い人は、ヒロインを眺めている。
悪い人  喝采せよ、喝采せよ! 天蓋へと通ずる階段を、十字架を担いだキリストが登るのだ。いま、いま、彼の者の血を以ってして、天は蒼へと染まる。
釘を! 槍を! 布を! 貴様の望んだその時だ! 螺旋階段のその果てに! 蒼天の夢は終わらない!

【1】ヒーローが落下している。
ヒーロー 落ちる、落ちる。この感覚は慣れない。ああやって一歩ずつ、踏みしめながら登った階段も、落ちるときにはこうも一瞬なのかと、いつも思う。目を閉じて、流れに身を任せ、自分は悪くないのだと思い込む。ああ、ああ、地に足はない。
●ヒーローがピアノの上に落ちる。ピアノの横にはランバージャックがたたずんでいる。
ランバー やあ、僕の愛しい御敵。
ヒーロー …ランバージャック。
ランバー 君はどうしてそういつも、どこかしらから落ちてくるんだい。
ヒーロー …。
ランバー 林檎を見つめるニュートンの気分だ。
ヒーロー なぜだろう。
ランバー なぜだろう。
ヒーロー なぜ俺はいつも、どこかしらから落ちているのだろう。
ランバー きっと、重いからだろう。
ヒーロー 重い。
ランバー 演劇を見たんだ。ひとりの天才が、人の心や想いに、引力が働くことを発見する話。なかなか面白かった。
ヒーロー …そうか。
ランバー いまの君の心には、数々の想いがぶら下がり過ぎているんだ。その重い想いの重さで、この螺旋の階段からも落っこちるんだろう。
ヒーロー …。
ランバー 少しだけ、がっかりしているんだ。僕の首を引きちぎった頃とは別人だよ。
ヒーロー …俺はどうすれば。
ランバー どうすれば。
ヒーロー どうすれば俺は、この重い想いの鎖を引きちぎることができる。
ランバー 簡単だよ、Knight of lady。自分の心の中にある、もっとも強く、大きく、傷だらけの槍を手に取るんだ。
ヒーロー 一本の、槍を。
ランバー この国の将来のために戦うのも、あの天蓋を護るために戦うのも結構だけど、もっともっとシンプルな想いがあるはずだ。
ヒーロー …、クセルクルス…。
ランバー そう、そう。
ヒーロー 彼女はいまどこに。
ランバー 螺旋の階段に。
ヒーロー なぜ。
ランバー 彼女は鍵だ。重い想いの重さを利用し、君を螺旋の階段から突き落とした彼にとっての鍵。そして唯一、あの天蓋を破壊せしめる蒼天への鍵。
ヒーロー …なに。
ランバー あの天蓋は、産業革命以降に人々が積み上げてきた罪の山だ。
ヒーロー …。
ランバー しかし、その罪によって空を奪われ続けた人々の想いは重い。その重さが、彼女に階段を登らせる。
ヒーロー クセルが、自分から…。
ランバー 彼女は十字架を背負ったキリストだ。その死は、人々を天蓋から解放する。彼女の紅い血が天を蒼に染めるとき、彼女は聖女となるのさ。
ヒーロー 自分から、望んで…。
ランバー ならば君はどうする、Knight of lady。
ヒーロー …。
ランバー 彼女の意志を尊重するか。
ヒーロー …。
ランバー はたまた、君の想いを押し付けるか。
ヒーロー あ…。
ランバー 君の手にした槍には、何が刻んである。
ヒーロー 俺は…。
ランバー 俺は。
ヒーロー 俺は騎士だ! クセルクルス・ルナ・アクタルの騎士、彼女だけの騎士だ!  我がお役目は、彼女の生きた盾となり、彼女の猛る槍となり、この身とこの心を以ってして、その御身をお守りすること!
ランバー ならばゆけ、彼女のもとへ。僕の愛しい御敵よ。Little ladyは待っている。Knightが助け出してくれるのを、ずっと。時間はあまりない。
ヒーロー どうすればクセルに追いつける!
ランバー 螺旋の階段を駆けても間に合わない。だが、ピアノがある。
ヒーロー ピアノ。
ランバー 音は速い。音の階段を駆ければ十分に間に合う。
ヒーロー …ランバージャック。
ランバー きこりの手でも、低い音から高い音へ、低い場所から高い場所へ、音の階段を弾くことは可能だろう。
ヒーロー 我が愛しき御敵。
ランバー ただし、ピアノマンのように丈夫な階段はつくれない。音には音を。いいかい、裾をひるがえし、踵を鳴らして駆けるんだ。
ヒーロー 礼を言う。
ランバー ゆけ、Knight of lady。踵を鳴らせー! 
ヒーロー以外の演者全員 踵を鳴らせー!
●ランバージャックがピアノを弾く。ヒーローは音の階段を駆けあがる。
●ヒーローが踵を鳴らすたびに、ピアノの音が弾ける。

【2】悪い人が階段の頂上で天蓋を眺めている

悪い人  全ては準備…私の目的は唯一なのだ!天蓋の崩壊、ごった共の魂魄解放、公女クセルクルス・ルナ・アクタルのヴィア・ドロローサ、「重い」の連鎖も何もかも!全ては準備だ!
さぁ…全てを終わらせよう。この素晴らしく腐った鉄の時代を!
英雄は語られる存在でなくてはならない!英雄は!英雄譚へと成り果てるのだ!!
     
●ヒロイン、意識が朦朧としている。それでも階段を登り続け、ふと昔を思い出す。
ヒロイン 彼に救われた時の事を今でも思い出す。
私は彼を、酷く脆い人だと思った。そう、人。
世間からは「ヒーロー」「英雄」と称讃され、今や「化物だ、怪物だ」と恐れ臆される彼は、紛れもない一人の人間だった。
 世間は新しい価値観を提示する彼が邪魔であり、異端だった。彼はきっと十字架を背負わされて、処刑場まで歩かされるだろう。見せしめのために。
     十字架を背負うとは、そういうことだから。拭い去ることもできないほどの罪の意識、精神的な苦痛と悲嘆。彼は死ぬまでそれを背負い続ける。
誰にも悔やまれることもないまま……………
 そんなの嫌だ!絶対に嫌だ!彼を、彼を助けないと!
     どうすれば?彼を救うにはどうすれば!!

悪い人  『ならば、お前が背負えばいい。お前が、キリストとなり階段を登るのだ。』
     
ヒロイン 私が、階段を。
     登らなければ…彼の為に。
 階段を…螺旋階段を…
 
●ヒーロー、クセルの元に見参する。
ヒーロー そうか。守られていたのは俺の方だったのか。クセルクルス。
ヒロイン 登らなければ。階段を…
●ヒーロー、クセルの十字架を「鎖」によって引き剥がす。
 クセルは倒れ眠りにつく。
 ヒーローは一度、片膝をつくが、それでも立ち上がる。

ヒーロー すまない。君の覚悟を踏みにじることになる。
     すまない。俺の身勝手で君に「重り」を背負わせてしまって。
     お願いだ。誰かの為に死のうとするな。
     お願いだ。君の覚悟を踏みにじり、一番身勝手で最低な願い……
『ここで少し、待っていてくれ。』
     
●ヒーローは前を向く。
ヒーロー 俺は彼女の盾となる。俺は彼女の槍となる。器械は常に先行を続け、後退などは許されない。ただひたすらに前へ、前へと進むのだ!