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機巧仕掛塔ラステアカノンのトルティーネ

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『グルェオオオオ!』
“目玉”はどこから上げているのか全くわからない奇声を放ちながら、逃げ出したトルティーネ達を追いかけるように転がり始めます。
 轢かれたら最後、ぺしゃんこにされるのは目に見えていました。
 長い長い廊下を一瞬で駆け抜け、蹴破るように開けた扉の先は、曲がりくねり斜面になったまた廊下でした。
 さっきよりもやや広めで、両側の壁はレンガ造りに変わり天井から等間隔に下がるダイヤの形をしたランプは可愛らしいのですが、トルティーネ達にそれを見ている余裕はありません。
“目玉”が更に加速した為、トルティーネ達も必死になって走り、あまりの速さに足は渦を巻いているように見えます。
「これ“パーツ”〜?!でかー!良かったねぇええうっさんんん!“パーツ”見つかったよよよー」
「良いわけあるかあぁあ!この状況でよくそんなことが言えるなぁあッ」
 場違いにもどこか周囲にお花を散らしているトルティーネとは対照的に、うっさんは幾筋もの青い線を額に垂らして叫びます。
 パリン、パリン、バリバリ、と、“目玉”がランプを次々割っていく音が自分達の末路を予感させ、どれだけ息が切れても足を止めるわけにはいきませんでした。
 それから手当たり次第に見つけた扉に駆け込むも、その大きさからどうやって通り抜けたのだとツッコミたくなる程、“目玉”はトルティーネ達の行く先に必ず現れ、執拗に追いかけてきました。
「はぁ、はぁ、あ、あれは厄介だな・・・」
「だ、ねー・・・。あ、足が、棒、より、い、石かもー・・」
 今しがた通ったジグザグした階段で、相手が折り返す度に減速していた隙に距離を取ることに成功したトルティーネ達は、ホールのような空間にある二階部分のカーテンに身を潜めていました。
「あー・・・喉がかぺかぺする〜。あれじゃ話も聞けないしー・・・」
 いつもより何割増しもだらだらと、トルティーネは床に座り込み目を回しています。いぬは勿論の事、ぴぃはあまりの力で握られていたせいで、口から泡を吹いて倒れていました。
「また来たか・・・」
 うっさんが柱の陰から顔を出して見下ろした階下には、トルティーネ達を探すように、瞳孔をギュルギュルと動かしながら、“目玉”が辺りをゆっくりと練り回っています。
 天井に輝くきらびやかなシャンデリアの下で、何十列にも設置されている椅子は、噛み砕かれるような音を上げて潰されていきます。
「あの大きさでは、炉にくべるのも難しそうだな」
「うーん・・・、小さくないと運べないし〜」
 床に突っ伏したトルティーネは、伸びた蛙のようです。うっさんも含めこの場にいる全員が限界を迎えていました。次に見つかったらまた始まるかけっこのことなど、考えたくもありません。
 うっさんは暫く、考え込むように床の一点を見つめていました。
「・・・仕方ない。一つ、強制的に止めるとするか」
「・・・?」
 少ししてから、何かを決めたように項垂れた皆を見回します。
 うっさんの瞳はあの“目玉”と同じように、ギラリんと光ったのでした。


「いぬ〜っ行っけー!」
「くぅおおおん・・・!」
 半円型の舞台は赤いカーテンに彩られ、今にも袖から役者達が出てきそうでした。背面に描かれるのは曇天を貫くような険しい峰。不毛の崖に聳えるのは霧に紛れた古城です。麓には城下町が広がっています。
 演じる者がいない壇上より手前、観客席は今や更地になっていました。
 人が軽く三千人は座れるであろうスペースを、縦横無尽に走り回るのはいぬです。椅子の残骸、瓦礫の上を号泣しながら全身全霊で疾走しています。自分の涙で滑ってしまわないか心配ですが、そんなことになれば最後、
『グルォオオアアアアア!』
 追いかけてくる“目玉”にミンチにされてしまいます。
 いぬの震えは絶頂に達するも、その足の早さはまるで光速。逃げたい一心で駆けるいぬのそれは天下一級です。
「お〜!いいよーぅ!」
 二階から声援を送っているトルティーネの手には、ずっしりとした金糸で織られた太い紐が握られていました。それは舞台の袖から上に伸びてきているもので、装置の一つでしょうか。
 トルティーネは小さなバルコニーの手すりの上に登り、面白そうにいぬを目で追っています。
「そこだ!舞台へ!」
「く、ひぃ・・・ん!」
 トルティーネの隣で指示を出すうっさんの叫びに呼応して、いぬが進行方向を九十度変えました。“目玉”を引き連れ、いぬが飛び込んだのは舞台の上です。
 いぬはジャンプしましたが、勢いのままに突っ込んだ“目玉”は、舞台と客席の段差に阻まれ激突します。木造の床を抉り舞台を破壊しながらそれでも“目玉”は進み続けましたが、壇の中腹辺りで減速しました。
 そこへ、
「よし、トルティ!」
「おっけえ♪いっくよ〜!・・・あーあ、あ〜〜!」
 うっさんの声にトルティーネは手綱を思いきり引き上げ、そのままバルコニーを飛び降りました。紐の先にしがみつきながら、振り子の要領でホールの空中を滑空します。溝にはまったように身動きがとれなくなっていた“目玉”目掛けて、
「どぅりゃぁああああ〜!」
 タイミングよく手を離し、その球体ど真ん中へとブーツの裏側を合わせて、渾身の力を込めた飛び蹴りを決めました。遠心力も加わり、足は“目玉”にぐにゃりと食い込みます。
 音が歪んだ直後、けたたましい破壊音を上げて“目玉”は舞台を更に粉砕しながらめり込んでいきました。背景の壁手前に到達してようやく止まります。
「ふ〜ぅ、出来た〜」
 しゅたっと、達人のような空気を切る音を纏いトルティーネは客席の方に着地しました。“目玉”はそれこそ目を回しています。
 更に追い討ちをかけるべく、
「今だやれ、ぴぃ!」
「ぴぃ!」
 うっさんが最後の号令を掛けたのは、頭上で輝く巨大なシャンデリラの上でした。蝋燭の光に紛れるように黄色い体を埋めていたぴぃは、返事をしながら、翼を広げ身を屈めます。
 そして、
「ぴぴぴぴびぃいい!! 」
 シャンデリアを思いきり蹴り飛ばし、まるで弾丸のように回転しながら、ぴぃは飛び出しました。身を屈めたトルティーネの頭上をすり抜け、舞台袖に引っ込んでいたいぬの目の前を一瞬で通過し、ぴぃミサイルは目標に着弾します。
『グゴォォオオオオオ・・・ッッ!』
 その痛恨の一撃が“目玉”を容赦なく貫きました。
 凄まじい絶叫と共に、弾痕を中心にヒビが走ります。衝撃に煽られ周囲の瓦礫は舞い上がり、“目玉”はやがてひび割れたガラス玉のように砕けていきました。
 そして卵の殻が割れ中から黄身の塊が出てくるように、ころんころん、ころん・・・と跡形もない舞台上に転がってきたのは、─────小さなアイスブルーの瞳でした。