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機巧仕掛塔ラステアカノンのトルティーネ

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 トルティーネとうっさん。ふたりの間を突如、背後から一線の光が貫きました。突風が吹き抜けるように通過していったそれは、洞窟の奥へ糸を引きながら消えていきます。
 目を丸くして口をポカンと開けたトルティーネとは違い、直ぐ様光の飛んできた後方を振り返ったうっさんが見つけたのは、
「ぶるぶるぶる・・・・・」
 さっきは気付きませんでしたが、竹林と岩壁の丁度中間辺りにある一つの岩でした。それはトルティーネの腰の高さ位で、台形をしています。何かを置く台座のようでもあります。
 思えばいぬがずっとその隣に座り込み、尻尾を振っていました。
「わぁ、また何これ〜?」
 縦長の丸い窪みに嵌め込まれるようにしてあったもの。
 うっさんに言われトルティーネが取り外したのは、指先くらいの厚みがある鈍色の円盤でした。
 いくつもの大小様々な丸い突起が規則正しくあしらわれ、美しい装飾が施されています。ひっくり返してみると綺麗に磨かれた表面にはぐにゃりと歪んだトルティーネの顔が映りました。
「二つ目の“パーツ”か?」
「くぅ〜ん」
「いぬが言うならそうなんだろうねぇ、なんか光ってるし〜、ラッキ〜」
「ぴっぴ〜」
 こんなにも短時間に“パーツ”が二つも見つかったことに訝しげなうっさんとは対照的に、トルティーネ達はるんるんです。鼻唄をハモりながら、両手の“パーツ”を振り回します。
 それから、行く宛もなかったのと光が放たれたこともあって、ひとりと三匹は警戒しつつも洞窟の中へと入りました。
 ─────コツコツ、とぼとぼ、てくてく。
 三つの足音を反響させながら、暗い暗い洞窟を手元の“パーツ”が放つ淡い光を頼りに、みんなで寄り添いながら進みます。ひんやりとした空気が漂い、手で触れた側面の石壁は冷たいものでした。
 洞窟は入り組むこともなく、真っ直ぐに続いていました。
 他愛のない話をしている内に、やがて行く手には新しい光が差し込みます。
 出口を求めて、無意識的に足早になるトルティーネ達。
 洞窟を抜けるとそこに広がっていたのは、─────


<ちはやぶる神の威光よ 神寿彩りなし 尚、無辺照らせや 惟神の道遍く満て>


 地平線でした。
 見渡す限りの白い大地。
 凹凸の一切ないまっ皿な地面。
 対する頭上には、濃紺の大空がどこまでも広がります。
 いつもの夜空と決定的に違うのは、星々の大きさ。
 まるで眼前に迫るように巨大な惑星が色彩豊かに光る、遠近法の狂った宇宙。小さな星の瞬きが、その合間合間に散りばめられています。
「「・・・・・」」
 言葉を失い立ち尽くすトルティーネ達の前に、真っ直ぐ伸びた一本の道。その側道に等間隔で並んでいるのは、淡い橙色の炎を灯す蓮の蕾。
 導く先に佇むのは、─────厳かな白亜の神殿でした。
 重量のある笠木を頂いた妻のある屋根。神明造を基本に、立派な梁に支えられたそれはこの世界に唯一つ存在している建物でした。
 トルティーネ達が誘われるようにその社へ歩き始めると、一歩、また一歩と踏み出した足先から、雫を落とした水面のように波紋が描かれ広がっていきます。蓮華は鈴を振るわせるように次々と綻び、妙音が奏でられました。
 神聖な雰囲気に包まれ呑み込まれながら、辿り着いた神殿。
 開かれた扉を潜り中に踏み入れたそこにあったものは、─────木造の祠、小さな祭壇でした。
「何か入ってるねぇ〜」
 半壊して扉がないその奥に祀られていたもの。それは錦で飾られた9のような形をした翡翠でした。
「何これ笛〜?吹くの〜?」
「いや、どうみても石だろう。・・・宝石の類じゃないか?」
「宝石〜?」
「ぴー」
 あまりピンときていないトルティーネが、何気なくその宝玉に手を伸ばします。先に見つけた二つの“パーツ”を片手で器用に持ちながら、肩に飛び降りてきたぴぃと、足元に近寄ってきたいぬが見守る中、
 宝玉に指先が触れようとした、その瞬間。
「?!」
「ぅわぁ」
 抱き抱えていた二つの“パーツ”が突然光だし、今まさに触れようとした翡翠が呼応するように白い閃光を放ちました。みるみる周囲は強烈な光に塗り潰され、トルティーネ達の姿も消えてしまいます。
 ─────どこからともなく漂ってきた伽羅の香りが鼻孔を擽り、透明な花片が淡雪のように降り舞います。ぼんやりとした輪郭が手招くように震え、やがて残像に変わり薄れていくと─────
「目、目がぁ・・・」
「ぴ、ぴ、ぴ・・・」
「くぅぉおん・・・」
「・・・・・・・・」
  両手で目を覆い唸るトルティーネの姿が浮かび上がってきました。あまりの光量のせいでぴぃといぬは床にひっくり返り目を回しています。
 うっさんだけが変わらず仁王立ちのまま、しかし不自然に固まっていました。
「あれ〜?消えちゃったー・・・?」
 腕の中から消え去った重みに、トルティーネが両手を見比べて首を傾げます。
 持っていた筈の“パーツ”と、祠の中の玉と合わせて三つ全てがそっくりなくなってしまいました。きらびやかな錦の布が少しだけ凹んでいて、そこに何かがあった名残をみせているだけです。
「何だったんだろぅ・・・」
「ぴ、ぴー・・・」
「くぅ〜・・・」
 変わりのようにぴぃといぬを抱き上げたトルティーネが、まあいっか〜、と顔を上げました。
「あ〜!」
 すると、さっきまでは目にも止まらなかった大きな<扉>が、ハの字型に広がる天蓋の向こう側にあるのを見つけました。
 トルティーネは祠をすり抜けて、社の更に奥へと小走りに駆けていきます。
「扉だー、やっと帰れるね〜。ぴぃ、いぬ、生きろ〜」
 周りには見向きもせず、さっそく腰のベルトから鍵を取り外し、水流や見たことのない花模様が彫られた<扉>の、八芒星の鍵穴を見つけ挿し込みます。
 カチリ。
 いつものように鍵は合致し、トルティーネは歓喜の声を上げました。
 ゆっくりと静かに、<扉>は独りでに開いていきます。
「うっさ〜ん、何してるの〜?早く帰ろー?」
 ふと、ひとり足りないことに気付いたトルティーネが振り返ります。呼ばれたうっさんは、しかし同じ場所で立ち尽くしたままでした。
 何か深く考え込むように、どこを見ているのかわからない眼差しで動きません。
「・・・“パーツ”が、勝手に消えるだと・・・?」
 トルティーネ達には届かない、砂粒のように小さな呟き。
 うっさんは独り言ちます。
「・・・いつもはトルティーネが返すから仕方なくだったが・・・、流れ着かなくていい“パーツ”が入ってきているのか・・・?」
 それは連呼されるトルティーネの呑気な声とは対称的に、重みを持って沈んでいきます。
 愕然としたうっさんの瞳に映ったのは、首を傾げるトルティーネの呆けた顔と。
 そして、
 開ききった<扉>の向こうに広がる、─────いつもと何も変わらない機巧仕掛塔ラステアカンの風景でした。