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夢と少女と旅日記 第8話-1

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 12/6/2

 昨日も電話で聞いた話ですけれど、今朝改めてネルさんから、ナイトメアと接触したときのお話をお聞き致しましたわ。サファイアは「何取り逃がしてんのよ」と憤慨していましたけれど、話を聞く限りネルさんに落ち度はありませんでしたわね。おそらくわたくしでもナイトメアの股間を蹴り上げるくらいしかできませんでしたわ。
 それより気になるのはチェルシーという夢魔の方ですわね。ナイトメアが一応は歩み寄る姿勢を見せていたのに、有無を言わさず退却させたという点には注意が必要ですわ。少なくとも命令に従うだけの存在ではないということですわね。
 もちろんネルさんの言うように、むしろそういう存在がいてくれた方がやりやすいかもしれませんけれど。上手くいけば、ナイトメア側に対して内部からの崩壊を仕掛けることも可能かもしれませんわ。
「あの、私はどうすればいいんでしょうか?」とサンデーさんに訊ねられましたけれど、とりあえずはそのまま情報提供の役割を果たしてくれればいいと答えましたわ。そもそもサンデーさんはまだ子供なのですから、これ以上危険な目に遭わせるわけにはまいりませんわ。
「そうですよ、サンデーさん。お母さんと、このお姉ちゃんに任せてくれれば大丈夫ですから」
「……ですから、わたくしはあなたよりも年下ですわ。まあ、もう怒る気もありませんけれど」
 わたくしは大げさにため息をつきましたけれど、そうしたおふざけに本気で怒ったりしていませんわ。むしろ少しだけ空気が和んだような感じさえしましたわ。……わたくしたちが囲んでいたテーブルが大斧で叩き割られるまでは。
 そう、それは突然の凶行でしたわね。わたくしたちが見上げると、そこには品のない髭を蓄えた大男のおっさんが立っていましたわ。
「な、何しやがるんだ、てめぇ!」
 まず大声を張り上げたのはルビーでしたわ。それに続いたのはサファイアでしたわ。気の強い妖精を連れていると、代わりに怒ってくれて楽ですわね。
 まあ、わたくしは腐っても魔術師ですわ。こんなたいしたオーラも感じない男なんて、いちいちビビるほどじゃありませんわ。
「お前らが最近何やら企んでいるっていう連中だな!?」
「企み? 変な言いがかりはよして欲しいですわね。わたくしたちがあなたに何をしたと言うのかしら」
「ふざけるな。こんなこれ見よがしにひそひそ話をしやがって。それだけでもドリームバスターズにとっては目障りなんだよ」
 などと言っていましたけれど、おそらくレガールの指示ではありませんわね。短絡的な男がひとりで激情してくれたのであれば、こちらとしては大変好都合ですわ。
 この場で倒すこともおそらく容易でしたけれど、ここはか弱い女性を演じて逃げるが常道ですわね。他のお客や店の人も何事かとこちらの様子を窺っていましたし、話の内容が分からなくてもどちらが悪なのかは一目瞭然でしょう。
「俺はなあ、家族を養うために大量の金が必要なんだよ。分かるか!? 世の中、金金金だ。その俺の稼ぎを邪魔しようってんなら、たとえ女どもでも容赦はしねえ。
 そうだ、これは俺の妻と娘のためなんだ。だから、お前らに危害を加えたところで俺は悪くねえ」
 後半の方はまるで自分に言い聞かせるかのように、ぶつぶつと気持ち悪かったですわね。どんな事情があるのかは知りませんけれど、何やら精神的に追い詰められているようでしたわ。……まあ、そんなことはどうでもいいですわ。
「ネルさん、ここは逃げますわよ!」
 先ほどから何故だかおとなしいネルさんの手を引っ張って、わたくしは喫茶店を出ようと致しましたわ。そのとき、ようやくネルさんの様子が何やらおかしいことに気付きましたの。
「お父さん……?」
 ネルさんは焦点の定まらない目で、男を見上げていましたわ。その目はどうやら怯えているようでしたわね。
「何を呆けているんですの!?」
 男が深々と振り下ろした大斧を引き抜こうとしている間に、わたくしは無理やりネルさんを連れ出して、喫茶店を抜け出しましたの。もちろん他の皆さんもそれに続いてくださいましたわ。
「待ちやがれ。逃がさねえぞ!」などと男は叫んでいましたけれど、このあたりは朝は人通りが多く、呆気ないほど簡単に男を撒くことに成功致しましたわ。ですが、それよりもやはり気になるのはネルさんの様子でしたわね。
 突然男に襲われて怖くなる気持ちは分からなくはありませんけれど、それでもこの怯えようは異常だと思いましたわ。相棒のエメラルドさんも心配そうな顔をしていましたわね。全く持って普段のネルさんらしくありませんでしたもの。