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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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『 東京が首都である理由 』

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私は東北出身者である。
東京へは大学進学と同時に出てきて、それ以来ずっと都心の近郊に住み着いている。
東京はとにかく人が多く、私は常に人の波をかき分けて生きている。

若い頃の話だが、その時の私には定職が無く、面接や飛び込みの売り込みを続ける日々だった。
東京へ来てからの私はしばらくの間、どこでも重宝がられたが、東北にありがちな誠実さを搾り取られ、絞りかすのようにボロボロになった私は常にゴミにされた。
どこでも深く頷く会社の社員が根掘り葉掘り個人的なことを聞き、答えさせるだけ答えさせては後日、紙切れ一枚で人のなけなしの電車賃と時間を葬り去っていく。

原因に気付くまで、10年掛かった。家が盗聴されているらしいのである。
気付いたのは、自宅で話したことを隣の席の人が大声で話した瞬間であった。私は震撼した。
それは知らぬ他人で、電車の中での話だったからである。私は当時まだ若く、そのまま貧血を起こして駅員に引き取られた。

以来、気付いてみると血の気が引くような事態は過去も現在も起こり続けていることであり、きっと未来にも起こることは予想が付くことであった。
盗聴されているというのは事実ではあったが、どうやら犯人は過去の仕事仲間のようであると私は目星を付けた。
しかし、かといって証拠が挙がる自信はなかった。警察関係者も多くその中には含まれており、届けを出すことも無意味だと予想が付いた。

それから、定職を持つ度にプライベートな事柄で職場を追い出されていたことに気付いたのもその頃のことである。
ある日のことだが、都会の雑踏を歩いていると男が立ち小便を駅の改札口でしながら叫んでいた。別の日には、女が自転車置き場で絶叫していた。また別の日には、乗客とバスの運転手が口論をしていた。

あまりにも半径何メートルも避けて通りたい光景を見て、私は陰鬱になった。若い頃の私のような者は多く存在するのだ。
諦めるべきだ。無職者は犯罪者になるために存在し、有職者もまた、階級次第で裁判も示談も無駄であるからだ。

私は、少し痛む頭を振りながら、テレビを付けた。今日は、新幹線が通る駅前の通りで、通り魔殺人事件があったという。
おおかた若者が、目の前でケツでも押さえて大笑いしたんだろう。それか、電車の中で携帯電話で大声で話しただけなんだろう。
または、アイドル崩れが絡んできただけなんだろう。犯人や被害者が知り合いだったことはないし、存在していたのかすら分からない。

私にとって、それが都会で、札束の入った封筒や拳銃がある場所には店と浮浪者が存在し、私は雑踏を怖れ嫌った。
人など必要なく、金と土地の取り合いのために見張り合いがある。芸能人とヤクザがいなければ、世の中にいらない人は存在しなくなるが、働かざる者食うべからずなのは彼らも同じらしい。
入らぬ人々を見ると胸がすく只そのためだけに彼らは大笑いし、画面の中に手術した仮面を晒し続けている。
都心のどでか看板も皆同じ顔に見え、他国のことを嘲笑うわけにも行かぬと私は思った。都心の空気が濁っている理由が生ゴミのせいだけではないのは明らかで、私は急いで電車に飛び乗った。
都心から少し離れた自宅がある駅は、空気が綺麗であるという以外、特段、都心に勝ったところはないが、私は人生に疲れを感じた。

私は少し優しい年齢になり、田舎へのリターンを考えたが、人の群れも魚も群れも同じであった。震撼するのと地震に巻き込まれる可能性とを秤に掛け、溜息を付く。
首都圏は、コンビニエンスな地域である。田舎者ほど都心を求め、集いはそこにしかない。
そして、盗聴されているとの妄想はもう無い。

何も変わらない毎日を秤に掛けるようなものだ、と私は思った。
全ては妄想なのだ。警察へ届けたとしても、病院へ逃げ込んだとしても。
罪名か病名を得るか、妄想を踏みにじられた後に現実を掴むかである。

夢は、どこかでのんびり楽隠居生活だが、それまではまだしばらくある。
私は張った肩を指で押し、腕を伸ばした。誠実を切り売りした日々が現在の私を作り上げている。

大したことない人生だが、これも有りだと私は思い、目を細めた。
視野が少し、狭まった気がする。