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夢と少女と旅日記 第7話-5

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 何がトワイライトメアだ。自分の手下をこんな簡単に殺しておいて、一体何を救えると言うのか。私はその怒りをそのままぶつけました。
「あはは、そんなに睨まないでよ。君のことは噂で聞いてるよ。何か悲しい誤解が生まれてるみたいだってね」
「何が誤解ですか。あなたは自分の手下をなんだと思ってるんですか」
「手下? ああ、“それ”のことか。それは僕の所有物でしかないよ。自分で自分の所有物をどうしようが僕の勝手だろう?」
「所有物って――」
「まあ落ち着いて聞いてよ。あのね、夢魔たちは全員、僕が作り出した紛い物の命なんだよ。とてもじゃないけど、生命として認められるようなものではないね」
「ふざけんじゃねえです。この子は、ミンティアは自分で考えて、あんたの命令に逆らおうとしたんじゃないですか。たとえあんたが作り出した命だとしても、その感情が紛い物のわけないでしょうが」
「はっはっは、確かに人間の感情を理解させるために、感情のようなものは植え付けたけどね。でも、やっぱり出来損ないだったみたいだ。そうでなけりゃ、僕の完璧な理想郷を崩壊させようとなんてするわけがないじゃないか」
 こいつは、思っていた以上に、話の通じない奴かもしれないと思いました。絶対に自分が正しいと確信している。自分が正義だと主張する悪ほど、厄介なものはありません。
「ネルさん、こ、こいつおかしいですよ……、やっぱり!」
「そんなこと言われなくても分かりますよ。こいつは間違いなく異常者です。こいつの主張に耳を傾ける必要はありません」
「うーん、分からないなあ。どうして分かってもらえないんだろう。嫌なものとか、つらいこととか、なんにもない夢の世界で過ごせたのなら、それはとっても幸せなことじゃないか。
 そのためなら、僕は喜んで道具になるよ。そして、僕が生み出したものも全て道具として扱ってくれていいんだよ。だから、僕の道具が壊れたからって、怒ったり悲しんだりする必要はないんだ。
 でも、僕は思うんだ。だからこそ素晴らしいってね。それが人間の持つ感情というやつなんだよね!? こんなどうでもいいことに怒ったり悲しんだりできる人間の心ってやつはとても素敵なものだと思うよ」
「よ、妖精だって怒ります。おかしいのはあなただけですよ!」
「それもそうかもしれないね……。もしかしたら、おかしいのは僕だけかもしれない。でも、いつの世も革命を起こす者は、どこか人とはずれているところがあるものだよ。そういう意味では、やっぱり僕は人間にとっての救世主となり得るよね」
「エメラルドさん、こいつの言ってることは無茶苦茶ですって! 真面目に聞く必要なんてないです」
 こいつの主張はでたらめです。何を言っても、ただただ、自分が革命児であるかのように語るだけです。こんな奴はこの場でぶっ倒すしかない、そう思いました。
「まあ、君たちの怒りももっともかもしれないね。それが誤解からきているものなのは残念だけれど、理解してもらうには時間がかかるかもしれない……。
 そうだね、とりあえず僕を殴ってくれないか? そうすれば、君の怒りも少しは収まるだろう?」
「何を――」
 言っているのか、と言いかけましたが、これは思わぬチャンスでした。殴ってもいいと言うのなら、遠慮なくやらせてもらった方が賢明でしょう。
「それは、パンチじゃなくて、キックでもいいんですか?」
「好きにすればいいさ。それで君の気が収まるんだったら、――ふぐぉあ!?」
 私は一発蹴り上げてやりました。ナイトメアの股間を目掛けて。さすがに油断しているところに、急所への一発は効いたようで股間を押さえて悶えていました。
 でも、私はもう遠慮なんてしません。このまま、この場でナイトメアを倒す。それ以外に道はありませんでした。
「『夢幻創造』」
 私はいつも通り、金の延べ棒を出現させて、ナイトメアにとどめを刺そうとしました。しかし、そこにブラックホールのようなものが現れ、そこから新たなる影が飛び出したのです。
「メア様、ここは一旦引きましょう!」
「あんたは、チェルシー!」
「ふん、お久しぶりね。……なんて挨拶している場合じゃないわね。さようなら、次に会ったときは覚悟しておきなさいよ」
 私が初めて夢の世界で対峙した夢魔であるチェルシーは、そのままナイトメアを抱きかかえ、ブラックホールの中へと消えていきました。そして、その部屋には怒りに震える私とエメラルドさん、そして亡くなった妹の死体を抱いて、ただ涙を流すだけのアイトさんだけが残りました。
 ようやく尻尾を掴んだのに、逃げられてしまった。このことはもうローラさんやサンデーさんにも伝えてあります。
 しかし、夢魔側に動きがあったこともまた確かです。楽観的に捉えればミンティアのようにナイトメアの命令に反する者が現れてくれるかもしれませんが、明日からはまた慎重になって行動しなければならないかもしれません。