鎧武外伝 仮面ライダー神武
終章
ヘルヘイム消失から三ヶ月後。
呉島貴虎は、未だ目を覚まさなかった。海を漂っていたところを通り掛かった漁船に救助され、一番近かった沢芽市の病院に搬送された。外傷は全て治ったものの脳に深刻なダメージを負ったらしく、現代医療では無理だと医者には匙を投げられていた。
当の貴虎は、夢の中で葛葉紘太と会話していた。
どうやら始まりの男となった紘太は、光実のために貴虎に戻るよう説得に来たらしかった。
『引き受けてくれるか?』
紘太のその問い掛けに、貴虎は少し微笑んで。
『ああ。』
そう一言だけ答えた。
『そう言うと思ってたよ。』
不意に、貴虎と紘太の耳に声が聞こえてきた。
幻聴ではない。その声は確かに聞こえた。
二人がその方を見ると、そこには紅城知記が立っていた。
『知記、お前死んだんじゃ…。』
貴虎は二重に驚き、紘太は疑問をぶつけた。
『…まあ、あのまま死んでもよかったんだけどな。けど、サガラに言われたよ。』
あの日。
知記が死んだ後、その亡きがらを最初に発見したのは紘太と戒斗だった。レデュエを倒し、ある程度回復した戒斗を連れて現実世界へ戻る途中に遭遇した出来事だった。紘太は共に戦った仲間の死に涙を流し。戒斗は何も言わずそれを見つめていた。そして紘太は知記の亡きがらを土の中に埋葬し、その場を後にした。
その後の事だ。
クラックが全て閉じる前。
高司舞が果実を受け入れる覚悟をする前。
サガラが未だヘルヘイムを漂う知記に意識体に接触した。
『なんだ、安らかな気分なんだ。眠らせてくれ。』
知記は話し掛けたサガラに対して最初そう答えた。
しかしサガラはこう言った。
「お前は、フェムシンムでありながら人間達の世界を守ろうとした。そんなお前には、最後までその世界を見守る義務がある。」
するとサガラは黒い塊を取り出し、知記の意識体にそれを埋め込んだ。
『これは?』
知記の意識は段々と黒い塊に定着していった。
「これは、お前達の世界になった知恵の実だ。ロシュオが持っていたものだが、レデュエが奪ったことで朽ち果てた。だが、お前をこの世界に留めておくくらいの力は残っている。その力で、世界の行く末を見届けろ。」
それだけ告げるとサガラは知記を現実世界に送り届け、そのまま消えた。
『サガラがそんな事を…。』
『ああ。だから俺は決めた。この世界の行く末を見届ける。俺が愛した世界だ。それが俺に残された使命でもある。』
『そうか。』
貴虎はこの言葉を聞いて決心が付いたようだ。
『お前がそう決めたのなら。俺もあの世界を見守る義務がある。一度はヘルヘイムに負け、人類を滅亡の淵に落とそうとしたんだ。その世界を守るのが、俺の責務だ。』
『お前ら。』
紘太は微笑み、貴虎は覚悟を顔に映し、知記は感情を悟られぬよう目を閉じた。
『…さて、道案内は俺がしよう。俺もある程度は世界に関われるようだし、何かあったら手助けはする。』
『ああ、頼んだぜ、知記。』
そう言い残し、紘太は消えた。
『そんじゃ、俺達も行くか。』
『ああ。』
こうして貴虎は現実世界へ戻って行く。
そして知記は、世界を見守りつづけるのであった。
<了>
作品名:鎧武外伝 仮面ライダー神武 作家名:無未河 大智/TTjr