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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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辞書。始まりのための始まり。

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何気もなくお母さんの持っていた聖書を手にしたところから始まった。
聖書と言えば、私のイメージとして宗教となる。
思いっ切り敬遠する一つだった。
宗教なんて無宗教に近い仏教の家柄でもあるし。
それなのに、その聖書を手に取った。

その瞬間は今でも覚えているけど、お母さんの部屋の椅子に座ってDSをしていた。
ゲームに集中したいけどチラチラと目が、お母さんのカバンの中にある聖書へと向かう。しばらくして私は諦めた。
セーブをしてDSの電源を切った。しかしまだ聖書には手を触れていない。
しかしなぜだろうか、体が勝手に動いたのか私の意志なのか右手がカバンの中にスーッと伸びて行った。
手にした最初の感想は、
『分厚い…。』
だった。…と思う…。
ハードカバーをめくると地図やら前書きやらがあって目次だった。
そして「創世記」とあって文章が始まる。

『小さな字だなぁ~…。』とため息が出たかもしれない。
兎に角、何がどうとかどうでもいいので読み始めた。
と言うかよく分からない感覚なのだが、読まなければいけない状況に追い込まれている感じがしたので読まざるを得ず読み始めた。

いきなり「神」という字が現れた。
『自分は仏教だし全ては科学で証明出来るはず。』
それに進化論を調べまくっていた時期でもあったので、私の思いに対して否定からの入りだった。
『やってくれるわぁ~。』
とへこたれるかと思いきや私の思いとは裏腹に、目が字を追うので遅れを取るわけにも行かず、目に負けじと脳みそも必死で「待ってく~れ~。」と追いかけた。
仏教なのになんで追いかけなきゃと思いたいけど、思う余裕もなく読んだ。

「神様がいろんなモノを作った。」とある。
その中には、空・地面・植物・動物・人間などなどあった。
『科学超えるわぁ~。ないわぁ~。』
と私の感想や思いはこんな感じだった。

しかし読み続けるとだんだんと面白くなった。
『…これは小説?!物語!?歴史書?!』
どういう事だろう…。
何がどうとか分からないけど、何かについての説明だと思った。
そして私は、お母さんに言った。
『お母さん、この本聖書って書いてあるけど、タイトルが聖書の「辞書」だね。聖書って辞書だったんだ!!面白いわ~。』
と言うと、お母さんは首を傾げて、
『んっ?!…辞書じゃないよ聖書よ。』
と困り顔で言った。
私は辞書と言い張った。

そして事はそこから始まったのだった。


辞書を読みはじめたのは、お母さんの実家(親が離婚しているので…)に私が帰っていた時の事で、私が自分の家に帰ると辞書を読めなくなるのでどうしたもんかとお母さんに相談した。
お母さんはある宗教の人からその辞書を貰ったということなので、私も同じように欲しいとその思いを伝えた。
お母さんも伝えてはみるけどくれるかは分からないとのことだった。

しばらく経った日、お母さんが出かけた先から帰ってきた。
『あなたにお土産があるよ~。』
とニコニコ顔で言った。
私は辞書のことなんか忘れてしまっていた。
お母さんがカバンから分厚い本を出した。
『わっ!!…辞書っ!!』
『はい、貰ってきたよ。大事に読みなさい。』
とお母さんから手渡された。
お母さんのボロボロの汚い辞書とは違い新品だった。
『ありがと~。』
すぐに私は自分のスーツケースへとなおした。
それは自分の家に帰ってから大事に扱おうと思ったからだ。

お母さんの家にいる間はお母さんのボロボロの辞書を読んでいた。
お母さんに、
『折角自分の辞書があるんだから自分のを読んだら…。』
と何度も言われたけど、聞き入れなかった。
後、
『辞書は一人で読んでも理解出来ないからね。』
とも言われていた。
その意味が全く分からず、無視していた。
お母さんは定期的に宗教の人から教わっていたので、理解しているとのことだった。

ある夜、洗面所で歯磨きをしていた。
洗面所と向き合って引き戸があるのだが、そこが20センチほど開いていた。
その引き戸の向こうはキッチンで、電気は全て消していた。
何故か気になって、その隙間を鏡越しに見ていた。
男の人と目が合った。
凍りつくとはこういう事なのかと実感した。
そして私は振り向いて、確かめた。
お母さんはお母さんの父親と二人暮らしをしている。
私に取ってはじいちゃんだ。
男の人と言ったらこの家の中でじいちゃんだけだ。
でももう寝ている時間だった。
振り向いたその場所に誰も人はいなかった。
しかし誰かいるのだ。
存在はしていないけど、確かにいる。
私は鏡の方を見た。やっぱり映っている。
また振り向いて確かめた。いないんだけど何かがいる。
怖くなって引き戸を閉めた。
鏡越しに映っている戸を見つめながら歯を磨いた。
その男は戸をすり抜けて同じ姿で私を見ていた。
その男は軍服を着ていた。
怖かったけど、虫歯になりたくないので、いつもより急いで歯を磨き、お母さんの部屋へと急いだ。
お母さんの部屋の戸は開いていたので、そのまま入った。

お母さんは辞書を読んでいた。
私は今あったことを説明した。
お母さんは何事も無いかのように、
『この部屋には入れない。辞書があるから入って来られない。だから安心しなさい』
と言い出した。
私は部屋にある椅子に座ってお母さんに訴えた。
『あの軍服の人は何?!誰っ?!』
『たぶん、お母さんが見たのと、お母さんの妹、妹の子どもたちが見たのと一緒だと思う。緑色の軍服来て、目が細くてジーっと見てるでしょ。たぶん一緒。…お母さんはもう何年も見てないからいなくなったと思ったけど、まだいたのね。』
と淡々と言いやがった。
『お母さん、もうちょっと何か言ってよ!!怖いよ~。』
『怖いと思ったら相手が喜ぶから怖いとか思いなさんな!』
そんな言い合いをしている内にまた気配を感じて、その方向を見た。
部屋の戸を閉めていない。
そこに男が立って同じようにこっちを見ていた。
『おおおおお母さん、お母さん…お母さん…、戸のとこに立ってる…。どうしよ~…。』私の言葉にお母さんは驚かず動じず、戸のところをチラッと見て、
『この部屋には入れない。辞書がある。』
と言って黙々と辞書を読んでいた。

落ち着かず慌てている私にお母さんが、
『もう寝なさい。…怖いなら辞書を持って寝たらいいよ。』
と言ったけど、私は拒否をした。
本を抱いて寝るなんて寝にくいと思ったからだった。
お母さんに、
『まだ軍服の人がいるよ…。』
と言ったけど、
『気にしない。早く寝なさい。』
と言われて、軍服の人の横を通って隣の部屋へと行った。
横を通るときにチラッと見たら私の動きに合わせて軍服の人も動いて目が合った。
「…やっぱりいる…。」
と思いながら隣の部屋の布団に入った。

それはその日の夜中だったと思う。
私は深く眠りに就いていたはずなのに、パッと目が覚めた。
そして大量の寝汗に気付いた。
布団を被っていたのに、布団を突き抜けて背中に刺さる視線を感じた。
まさかと思う前に私はそっちの方向を見た。
軍服の男が立っていた。
真っ暗なのに目は合うし上から見下されてるし怖くてたまらなくなった。
私はどうしたもんかと考えた。
お母さんのところへ行くかこのまま我慢して寝るか…。