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私の読む 「宇津保物語」  楼上 下 ー3-

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 帝は仲忠が大臣を拒むことを聞かれて、

「心の慎重な者である」

 と言われて、俊蔭を中納言に、京極に冠を与えた。内侍督のことは嵯峨院の言われるとおりされた。

 朱雀院への返事、

「前々から仰せられ、御幸のご意向を承っておりましたならば、私も参りましたのに残念でございます。

 仰せの衛門司のことは、この先欠員があるかどうか解りませんが、取り敢えず仰せの通りに致しましょう」

 と、送られた。

 左大辨が帰ってきて帝の返事を渡すと、宣旨が此方の申し上げたとおりに降りたことを知り、院二方は大変に喜んで上達部達に宣旨を読み聞かせた。それを内侍督が聞いていて、父の治部卿が中納言に昇進した件を読まれると、嬉しくて涙が流れ自分が昇進したことよりも嬉しかった。

 仲忠は祖父の昇進を喜び、祖父に替わって御礼の舞を舞う。嵯峨院は拝舞する仲忠を見ていて、仲忠には固辞したため何も贈り物がない、と残念に思われる。

 上達部や宮達から四人の童に舞の禄として与えられた被物は、色が濃い物や薄い物様々な織物、掻練のよく打たれた物、朝日に光って輝いて見事なものである。
「此の世で比類のないことをなさる方々だ」
 と、みんな評判しない者はない。

 犬宮が演奏する様を母の一宮が見て、生まれて五十日目の祝いである五十日餅祝いをしたのはついこの前の事と思われて、よく上達したものだと嬉しくて涙が出てきた。藤壺はこの光景を見て、我が娘であればと娘のないことを淋しく思う。

 二人の院は左右大臣、宮達、上達部がお供をして楼に登られることになる。嵯峨院は西の対よりお出でになる。院の御子と上達部は二手に分かれてそれぞれ院に従う。香を焚きしめた楼の中はいい匂で充満している。

 二院を始めみんなが楼から四方を眺めると、綺麗で艶めかしい。楼の中を御覧になって、

「本当に立派建築されたものよ」

 と、言われる。まして嵯峨院は巧みに派手に褒められて、

「琴の音を聴き、この楼を見ると天女の園もこのような様子であろうかと思われる」

 朱雀院は、細かく御覧になって、飽くことなく立派であると、

「本当に、この楼は容姿の悪い者が登るところではない、美人に限る」

 と、言われる。高貴な方々だけが隙なく楼の高欄に侍していた。

 庭山の上から落ちる瀧は、傘を広げたような岩に落ちて飛沫が広がり珍しい五葉の小松にかかる、紅葉の木、薄が泡沫に従って動くのが珍しくて、朱雀院が、

 すむ人も宿もわかねばまとゐして
世をつくすべき心地こそすれ
(離すことが出来ないほど住む人も宿も互いに相応しく似つかわしいのだから、あなた方俊蔭一族は団欒して末永くこの宿に暮らせばよい)

 兼雅、羨ましい宿の主人だ」
 
 直ぐ兼雅は
 
 やゝもせば枝さしまさる木の下に
     たヾやどり木と思ふばかりを
(うっかりすると枝が繁りすぎる木の下に、ただ一寸泊まるだけだと思っておりますのに主人などとはとんでも無いお言葉で御座います)

 二院の御幸を得た光栄有るこの宿には、今日からは勿体なくて、私の宿には出来ません」

 と、返歌をすると、気立てが宜しいと朱雀院は思われた。 


 嵯峨院は楼の北側を見ると眼下に鬱蒼とした森のようにして桜の木があった。

「ああ、この木を見ると恐ろしい。昔十歳過ぎたばかりで春ごとにここに来て詩文を読み、読み疲れると庭に降りて遊んだものだ。こんなに大きい桜の木であれば袖は到底懸けられなかったものだが」と、

 春きては我袖かけしさくら花
     今はこ高きかげと見るかな 
(春が来ると花の咲くこの桜の木に袖を懸けたものだ。それが今は森のように茂って小高い影となったな)

 近くに侍していた涼が、

 かねてより雲かゝりけるさくら花
       むべこそ末の小高かりけれ
(前々から雲が懸かっていた桜で御座いますから、末になって高いのは当然で御座います)

 七十になる宮内卿は、

「ああ、昔を思い出しますと、あの岩側の松は、あの山にあったのを、。院が子の日にお出でになって、小松をお引きになって、それをお植え申したもので御座います」

 と、申し上げた。七八尺ばかりで上が平たくなり傘のように見える松を見て、宮内卿金実は、

 ひき植ゑし子の日の松も老いにけり
千世の末にもあひ見つる哉
(子の日に小松引きをして植えた松も歳を取りました。幾久しい年月の後に再び奇しくも相逢うことが出来ましたなあ)    

 この歌を嵯峨院は大変気に入り、朱雀院に、

「この歌の返歌の代わりに褒美として、宮内卿を誰もが成りたがる民部卿にしてあげてください」

 と、帝に奏上成された。嵯峨院は、

「この宮内卿金実だけは故老として長生きしているのだ」

 朱雀院は
「ここは、大変優雅なところである。時々参って然るべき節会には左大辨藤英に作詩をさせて聞いてみたいものである」

 人々は、「本当に優雅なところで御座います」と言う。

 帰ろうとされる。

 朱雀院は大宮のお方と対面される、内侍督は仲忠に、

「このように忝ない御幸を賜りましてどうお礼を申し上げればいいでしょう」

「唐の書の中に小冊子で所々絵が描いてあり歌を詠んでいるのが三巻有りました。一巻を朱雀院に差し上げましょう。嵯峨院には何を差し上げましょうか」

「高麗笛を楽しまれるので、唐の帝に琴を差し上げたときに頂いた高麗笛を差し上げましょう」

 仲忠
「上達部にはいつもの決まった被物用の装束があります。若い宮達には決まり切ったものではなしに、何か趣のある物がよいでしょう」

「当然用意をしてあります」

 と、それぞれにお渡しになる。

 朱雀院にお渡しした唐の絵は一巻といえど四十枚ばかりである。紫檀の箱に黄金の口金をしたのに入れて差し上げた。

 朱雀院は手に取られて、

「私こそ今夜の禄には最上の重宝、不死薬と言う物を差し上げたい気持ちであるのに、これは是非見たいと思うものであるな」

 嵯峨院に差し上げた高麗笛の袋は、色を始め大変に麗しい錦の袋で、半透明な瑠璃の細長い箱に入れてあるのが透き通って見える。人々は珍しいものと騒ぐ。嵯峨院もお好きなものであるので大変にお喜びである。

 式部卿の宮、三人の大臣には女の装い、衣箱に入れる。そうしてその他の人々にはいつもの例に倣う物を差し上げた

 御子達には銀の小鷹を造り黄金の透餌袋に入れて総てに鈴を付けて差し上げた。珍しく艶めかしくしある。

 嵯峨院

「今夜の琴の音は飽くことがない見事なものであった。もう一回どうしても聴いてみたいと思っている。それは来年の桜の花の宴にもう一回聞かせてくれないかな」

 と仰せになる。朱雀院は近くに寄ってこられて、

「大変に飽きることなく聴いていたが、さてもう一度聴きたい物である。犬宮が美しく演奏をしているのを本当に嬉しく聴かせて貰い、貴女の限りない配慮には、引退した私を捧げたいと思いました」