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私の読む「宇津保物語」 國 譲 中ー3-

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「私が出家して山に籠もりました理由は、大層酷いことが起こりましたことを自分は全く知らなかったからです。ただ宛もなく淋しく、世の中に生きていたくない気持ちになりましたので親を見捨てて家を出ました。

 事の原因は、継母にありました。
 私が宮中にお仕えいたしました頃、私を誘惑しようとなさった。それを知らないふりをしていましたら、怨んだのでしょう、継母が父千蔭におかしな事を申しましたのを私は知らずに、父の心変わりを悲しんで出家をして嘆いておりましたところ、不意に思いも寄らなかった乞食姿に零落した継母の姿を見まして、

『どうしてこのような落ちぶれた姿になったのか』

 と、聞きましたら、

『継子であった人を陥れるために、親の宝とする帯を隠して、その帯は継子が盗んだ、と親に告げた。そうして更に、継子は帝に、父は帝を滅ぼそうとしていますと奏上した、と父親に告げた』
 
 と、その老婆は私が継子とは知らずに話しましたのを、私は山伏の身の上のことだと思いまして、その日最後まで話を聞きました。

 継母の話を聞きまして、私はよく思い切って逃げたものだと思いました。

 一方継母の讒訴をお聞きになった父上は私を責めることもなく、父の慈悲の気持ちが有り難く悲しゅう御座いました」

 と、話した。

 仲忠
「その継母はなんと恐ろしい女でしょう。そのことは左大臣の正頼様に話されましたか。その問題の帯はこの仲忠の許に御座います。

 千蔭大臣が隠遁なさろうとして、

「忠こそが居りましたならば渡そうと思っていましたが、今は代わって誰かに」

 と、申されて、嵯峨院に差し上げられた物を、、内裏に侍っているところを,去年の十二月に祖父の遺しました文書を帝の前で朗読を致しましたところ、ご褒美に戴きましたものです。

 そんなに大事な宝の帯を、話された因縁の様なことが絡んでいるとは恐ろしいことです」

 忠こそ
「そういう禍いを受ける因縁だったのでしょう」

「その帯は貴方がおいでになったら貴方の物になったでしょう、帯は貴方に差し上げようと思います」

「山伏には何の価値も御座いません。僧の装束に玉の帯をするのであればともかく、なまじその様な物を持っていましたならばあれこれと面倒なことになります。

 いっそ、貴方に差し上げたく思います」

「では、貴方の帯かどうか見てください」

 と、いって石帯を見せると、忠こそは見るなり涙を流して泣く、

「この帯は、亡き千蔭の内宴に出席すると言われて装束をなさったときに見ました」

「春日の祭りに参列しました少将仲頼の出家をしてから住んでいる水尾を訪問しました。その当時同僚であった誰彼は、今では私は上達部で、ある人は蔵人の頭です。この度休みを戴いて仲頼を訪ねようと思っています」

 などと話して、その忠こそが宮中に仕えていた頃、帝の御前で音楽をみんなで演奏して楽しんだことなどを話して話題は尽きない。

 こうして夜明けが来て、一宮の枕元に寄って、祈りを始める。

 仲忠は、特に心遣いをして、家司達に言って忠こその朝食を用意さした。


絵解
 この画は、仲忠の殿。律師が加持祈祷をしている。


 一宮が病気だというので舅である右大臣兼雅が見舞いに来る。大宮、正頼、仲忠が急いで出迎えて中に招じ入れる兼雅が正頼に、

「此方は病んでおられる、と聞きまして、如何な具合であろうかと見舞いに参上いたしました」

 正頼
「私もその様に聞きまして参上いたしました。少し前から体調が優れないとは聞いていましたが、たいしたことではないというのであったが、山の忠こそ律師を招かれたと聞きまして、驚いて参上いたしました。

 なんとなく気分が優れないというのではなくて、発作が起きて食事も通らないという。
 ある者は暑気あたりだとも言います。このごろは暑さが厳しいので、私も辛くて内裏にも昇っていません」

 兼雅
「私も久しく昇殿いたしておりません。そういう訳で、御譲位のことが近くなってきたようで、春宮の許へ参らなければならない梨壺が、暑さに苦しみまして看護を致しておりましたがやっと、参内いたしまして、さらに一宮がご病気だと聞きまして驚き参上した次第です」

 こうして二人は果物などを召し上がりながら話をされた。

 兼雅
「昔、このような暑い日にこの釣殿へ参って、池の鶚(みさご)を射落とす賭をして、射落として賭を得たこと。本当に今日までよく生きてきたことです」

 正頼
「今日も昔のようにしてみますか。朝の涼しい中に」

 兼雅
「ご即位のことは本当に決まったのでしょうか」

 正頼
「この八月頃とは聞いていますが、確かなことはまだ聞いては居ません。
 退位後のお住みになる朱雀院は完成しているとは聞いていますが。

『それで、急ぎのことは早くしてしまおう』

 との仰せでありますから」

 兼雅
「それはご心労なことですね。私にも仰ってください」

 左大臣正頼は兼雅が自分たちの様子を探ろうとしているのだろう、と気を回したが、正頼も兼雅も何気ない様子で話している、仲忠は二人に酒をついだ。

 兼雅
「このように一宮が苦しまれなければ、今月もあと僅かになりましたし、月が越えない間に小倉へ案内いたそうと思いましたのに」

 正頼
「そうでしたか。そういうところにお住みであれば悪くはないでしょう」

「では承知いたしました。月末にはご案内いたしましょう。昔貴方が御覧になられた頃より池の水の深さが増しまして、魚の数も増えました。

 どういう訳ですか、川が山の前を流れて庭に入っています。売買する者達が山荘の中を往来します。

 お目に掛けたいものです、春秋は昔より樹木の数が多くなり、趣が増した感じが致します」

 などと話し合われて皆さんお帰りになった。

 こうして仁寿殿が参内する折りに一宮に頼んだ妹の二宮は、この殿の西の方にお住まいになっておられる。

 二宮付きの乳母を二宮の側を離れないようにしてお出でであるが、弾正宮は母の仁寿殿から頼まれているので、二宮の側に夜も昼も付ききりで居られる。

 蔵人の少将近純は何とかして二宮に近づこうとするが、弾正の宮が居られるし、少しでも懸想の手伝いをしてくれる女房も居ないので、弾正の宮に頼んでも小言ばかり言ってとうてい取り次ぎはしてくれない。

 二宮に思いを寄せても言いよる方法がなく、困った男達は。女房に物を贈って、懸想の手伝いを頼む者もいる。

 蔵人少将近純は、二宮の傍に仕える中納言女房を色々な珍しい物を贈って、二宮を連れ出せと頼むが、そういう機会がない。

 何とか隙をついて忍び込もうとする男が多数いる中で五宮が一番積極的である。

 宮から聞かされるので一宮のお気持ちも仲忠が察して、

「そうは言っても経験しておいでだから、妊娠したとお気づきになったであろう。何も仰らずに私の気持ちを騒がせになるのですね。・本当に、あのようなよそよそしいお気持ちは侘びしかったですよ。