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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2-

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「この頃ずっと宮中に勤務いたしまして、夜も昼も文書を訓読んで差し上げておりました。やっと一昨日退出いたしました。

 そのまま三条へ伺いたいと思っていましたが、帰った日一日中の殿に居ましたが、気分が悪くて、その名残でしょうか昨日も起床することが出来ませんでしたが、御文がありましたので。

 実はお目にかけたい物が御座います。申し上げたいことも多く御座います」

 父兼雅
「どのような文書を訓読されたのかな」

「亡くなった、祖父治部卿俊蔭の読んだ文書などがありまして、何も隠すことはないと思いまして、帝に申し上げますと、見ようと仰いましたので、持参いたしました。

 一部読んで差しあげますと、帝はそのまま続けるようにと仰いなされましたので、読み続けました。

 その禄にとかような物を頂戴いたしました」

 と、仲忠は帝から頂いた石帯を父兼雅に披露した。

 兼雅は手にして。
「これは、曰くのある御帯である。このような立派な物を頂いた上は、祐純が

『世の中の人が言うのには、帝が尊い物として大切にしておられる物は、みな、仲忠にお上げになる。皇女の仲でもっとも可愛がっておられ、いつまでも手元に置いておきたいお考えの女一宮、玩具も全て仲忠にお上げになる』

 と、評判になっている。それは間違いではなかったようだね」

 仲忠

「故右大臣千蔭様の御帯だと言うことです。この石帯は父上の所にあるのが宜しいでしょう。宜しい帯をお持ちにならないようですから。仲忠は、亡き俊蔭様が唐よりお持ち帰りの石がまだ革に着けてないのが御座いますから。この貞信公の石に劣らないと思う石が有るのを細工させて、使用いたします」

 兼雅
「とんでもないことだ、折角帝の有り難いお志の籠もったこの石帯を、節会の折などに腰にして、お見せなさい。私の所には、別にあるから」

 仲忠
「そういうことでしたら、私の持っている石を石帯にして差し上げましょう。適当な角などをお持ちですか。そういう宝物を仕舞っておいたのでもう少しで危ないことが起こることでした」

「そのようなことは口にしないことだ」

「大変珍しいことですが、お話しいたしましょうか」

 兼雅は、
「どのようなことだ」

「ご報告が遅くなってしまいました。梨壺のことで御座います」

「顔を見ないで日にちが過ぎてしまった。なにか事があったのか」

「気にかかりましたので、帝の前を下がりますついでに、梨壺を訪れました。梨壺は、

『何もご心配には及びません。おめでたいことを聞きまして』

 と言っておいででした」 

 梨壺の父兼雅は大変驚いて、
「いつ懐妊したのか、春宮はご存じなのか。もしや父親が違うのではないか」

 仲忠
「忌まわしいことを仰らないでください。春宮がご存じないことはありません。他の妃よりは数多く渡っておいでですから。七月頃からと伺いました」

 兼雅
「これは大変に大事なことである。梨壺を入内させて頼もしいと思った頃、すぐに懐妊していれば今は・・・・・・・・。

 しかし、こう騒がしい世の中に、とにかく、懐妊したとは思いもかけなかった不思議なことであるな」

 仲忠
「私が参内していました時に、春宮もそのことを帝に申しあげる思いだったのでしょう、帝の側に二日ばかり侍しておられました。春宮は前より優れられておいでになる。即位されることも近いのでは」

 兼雅
「藤壺はたいした者らしいね。今は后並ではないか。春宮になる皇子を一人でなく二人も玉を磨くように立派にお持ちである。こういう幸い人をなんでもない私達男が懸想をして、お気の毒なことをしたものだ」

 仲忠
「藤壺は梨壺と同じようにご懐妊なされたようです」

 兼雅
「惜しいことに明王になるはずの春宮が、大勢の人を歎かしておいでになる。

 藤壺一人のために、他の妃達が父母兄妹と一緒に歎くのは、どれほど多くの人たちになるであろう。その中にも、嵯峨院の宮はどんな思いであろう」

 仲忠
「帝もそのことを、畏れ多いことであると歎いておられます。それに関連して、父上にも私にも困った心苦しい帝の仰せが御座います。

 どうか、三宮、梨壺の母をお訪ね下さい。そのことも帝が気にしてお出ででした。

 実際の所、嵯峨院の御世も長くはありません。この際三宮に次のように申し上げてください。

 仲忠のために新築なされた殿に三宮をお出で頂きましょう。別に目立つことでもないでしょう。この三条殿はこのように広い所です、仲忠が住む所と言ってお造りになったあの殿に三宮をお住まいするようになさいませ」

「どうしてそのようなことが出来ようか、あの殿は仲忠母の住まいとして造ったのに、他の者が住んでは、兼雅が心変わりをしたように思われる。

 お前達親子を長い間悲しませた事でも、せめて他の夫人が居ない所に気楽に住んでもらいたい」

「それは、父上のお心が三宮に全てお寄せになっておられれば、母も悲しいと思うでしょうが、嵯峨院のことも話されて三宮をお招きになれば、母上は何も思いませんよ。

 三条殿をそっくり三宮に差し上げて仕舞われるのなら母も悲しみましょうが、広い三条殿にお出で頂いて、時々父上がお通いになるのに何の遠慮もいりません。

 昔、父上がお若い頃遠慮無く振る舞っておいでになったことを思い合わせると、私がその頃のことを何も知らないことを、母はどんなに悲しんだでしょう」

 仲忠は父に話しながら涙を雨のように流す。父も母も仲忠の話すのを聞いて大変泣かれる。仲忠は、

「まして最近まで連れ添ったお方で、春宮の妃にまでなられた娘をお持ちになりながら、今は娘の局に侘びしく暮らしてお出でで、どんなに悲しいことでしょう。

 母上も父上も、仲忠の言うことをお赦し下さい」

 母の内侍督は
「何も心配なさることはありません。この数年此処にこうしてお出でになって、兼雅様のお気持ちは充分承知しましたから、今は私をお忘れになってもお恨みは申しません。まして、仲忠が申すことは立派なことです」

 兼雅
「私は知りませんから、お二人でお決め下さい・・・・・・・・」

 仲忠
「何日にお迎えしよう と文をお書き下さい。私が持って上がりまして三宮に詳しいお話を致します」

 兼雅
「仲忠が三宮に使いして、お話をしてくれ。私には何も言うことがない」

 仲忠
「お文を書かれないとは、いけません。父上の文がないのでは、私はどうして三宮にお目にかかれましょう」

 と言って、仲忠は硯紙などを用意して、父兼雅に渡すと、

「どう書いたらよいのだ」

 と、暫く兼雅は考えていたが。書き出された。

 兼雅は書き終えると
「こんなのではどうか」

 と、仲忠にお見せになる。


 兼雅の文面
「ここ数年、いかがお暮らしですかとお伺いするのも何となく恥ずかしくて、どうなさっておられるのかと案じてはおりました。不思議な気がするのですが、昔のように歩き回ることもしないで、無精になったようなのですが、どうしたのでしょうか。欲がなくなったのかもしれません。耄碌したのかとさえ思います。