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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1-

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仁寿殿女御の最後の御子は四歳で、髪は左右振り分けに結んで、白い肌に子供特有の丸々とした感じで、濃い綾の袿、袷の袴、たすきを掛けて直衣の袖を背中に止めて、盃(土器)をとって会場に現れた。

 祖父の正頼や兄宮達が、
「その盃は誰に渡すのだ」

 と口々に言うが、「そちらではないよ」

 と、兼雅の所に行って土器を渡すと、兼雅は跪いて若宮を抱き上げると膝に乗せて、土器を見ると、仁寿殿女御の筆跡で

 一夜だに久してふなる葦田鶴の
     まに/\見ゆる千歳なになり
(一夜だけでも久しいという鶴が目の前にちらちらするのですから、千年どころの騒ぎでは御座いません)

 いつもよりも立派な筆跡であった。兼雅は文を見て、

「なんと珍しく女御の筆跡を拝見することだ、二十年にもなるのかな、この筆跡を見るのは。立派に上達なさった」

 かって文通していた頃を思い出して、涙が落ちるが、大事に筆跡のある土器を懐に入れると、

「駄目です、これにお酒を入れてきなさいと、母上は申されました」

 膝に座った若宮が言って小さな指で兼雅の懐を指すと、

「これは汚れているから、この方が白くて綺麗でしょう」

 と、机の上の盃と交換して隠すと、見ていた人達が、

「いつもと違ってどうして懐に入れなさる」

 騒いで笑う。

 兼雅は若宮を抱いたままで、みんなに盃を回された。

 そうして順次和歌を詠う。行正の少将が先ず書き付ける。人に知られないように近くの硯から筆を執り、果物の敷き紙浜木綿に、書き付ける。

 万代にまに/\見えむ葦田鶴も
     古りにし事は忘れやはする
(いつまでもいつまでも貴女の前に現れる葦田鶴も、どうして昔のことをわすれましょう)

 と、詠って宮に渡すと、十宮は母女御の方へ行かれた。左大臣忠雅、

「こう皆さん方が年をとっても学問なさるけれど、仲忠は真面目にいつの間に深い学問をしたのだろう。こんな無礼講の場所に出てくるのは本意ではないだろう」

 右大臣正頼、
「なんのそんなことはないです。仲忠の今日の役目は大役だった。全く本当に」

 中務の宮
「どうして大役を務める仲忠の座が低いのです。今夜は上の座にお据えなさい」

 父の兼雅は、
「仲忠、早くおっしゃる通りにしなさい」

 仲忠は殿上人と共に簀の子にいた。式部卿宮。

「さあこれから、御簾の内の一の宮はじめ女御の方からお杯の流れを頂きましょう。あの蒜の匂いのきつい御肴が本当に頂きたくなりました」

 左大臣忠雅
「私も、兼純も頂戴しよう。どうか下さいませ」

 中務の宮
「大臣(忠雅)が仰らなくても、遠慮なしに頂きます」

 兵部卿宮はいくらか声が高いと思いながらも、あれこれと言われる。 

 ほのぼのと夜が明ける頃に、行正中将が階段を下りて稜王の舞を繰り返しこの上のないほど綺麗に舞われる。見ている人が驚く。

「これはまた、今まで見たことがない舞の振りである。どうして憶えられたのであろう。嵯峨院大后の御賀の時にあこ宮が舞われたが、きっとこの振りを伝授したのだな」

 と、ざわついていると、正頼の子息達が被物を手にして宴会場に来られた。仲忠は宮達に被物をとって肩に被けられた。

 被物は、女の装束、産着、襁褓を添えて。

 源中納言涼は、同じ被物を手早く手にして、舞をしている行正中将に被づけされる様子は大変に艶めいて美しい。左右近衛の幄の中にいた者たちはこぞって、

「色々と沢山面白いことがあったけれど、これこそ誠に結構な見物だ」

 三位中将以上には白の袿一襲、袷の袴一具。そうして四五位には、白袿一襲、六位には、一重襲白張、下仕には、絹の巻物(腰指)、上位も下位も被物は大層趣味がよい物である。

 上の音楽は終わって、司司の幄の者達の唐楽を奏して孔雀や鶴の舞が始まる。御簾の中にいる。女一の宮、女御、内侍督を始め正頼の姫達、女房やら皆騒いで観覧する。  

 御簾の内から黄金を柑子ほどに丸めて、、小さな銀の魚を二つを出されたので、式部卿の宮それを戴く。孔雀になった者は嘴で黄金の柑子を咥え、鶴を演じた者達は銀の魚を口にしてしきりに舞う。孔雀には褒美として、その禄の制服、袿。鶴には、白綾の稚児の単の襲一具、被物として与えられた。

 最後になって人々は泥のように酔い、千鳥足で倒れながら、各々は子供達に、供の者達に助けられて中に入っていった。

 右大将兼雅もよろよろと酔っぱらって入ると、息子の仲忠もしどろもどろに酔っていて西の方へ父を見送って、

「酒をたうべて たべ酔うて
 とうとこりそ 詣で来ぞ よろぼいそ
 詣で来る 詣で来る 詣で来る
(酒を飲んで 飲んで酔って ぐでんぐでんでやって参りますよ 千鳥足でよろめくな やって参りますよ やって参りますよ やって参りますよ)
(催馬楽「飲酒」ネットから)

 と催馬楽を楽しそうに唄って、自分の部屋に入ると、一の宮は犬宮を胸にしっかりと抱いて、自分の局に入られた。

 仲忠は後を追って入り、宮の鳥という舞を見ようと、柱にすがりついて立っているのを、宮は

「なんと見苦しい格好で、破れ子持ちみたいにして、見物して」

 と言って、引っ張りおろして仲忠を座らせた。

「この日頃下紐も解かずに慎んで、今も」

 と、仲忠は言って、一人床に臥す。

 母親の内侍督、父親の兼雅が一人籠もっている仲忠を慰めようと、局にやってきた。

 一の宮の乳母子、内侍典が装束を片付けていた。御帳の中は乳母と女房だけである。


絵解
 この画は、中の大殿の南面で、産養の席に客人達が並んでいる。
 そこに宮達が一人一人土器を持って酒を勧める。順の舞が始まる。

 この画は、各人が被物の袿を着て烏帽子を被って、右左大臣も同じ姿である。納言まで同じ姿である。。

 庭に幄があちらこちらに造られて、左右近衛の司の楽所も出来上がっている。その間には食卓が置かれて楽人達の食事が用意されている。鳥の舞をする者がいる。

 仁寿殿女御があちらこちらからの祝いの品をご覧になる中に、左大臣忠雅からの沈の衝重十二と銀の杯と有るのを内侍督に、権大納言忠俊からの浅香木の衝重お椀などが同じ数あるので、正頼のもう一人の夫人北の方へ、それぞれ差し上げるようにしてある。

 源中納言涼からの銀の衝重、蘇枋の長櫃に入れられた中の物みんなを藤壺(あて宮)に差し上げる。


「仲忠は酔っぱらっていたが、捌き方は良かった」

 と、女御は言って、仲忠は臥したままで聴いていた。
 仁寿殿女御は文を書く、

「昨日申し上げようと思っていましたが、酔って前後不覚でしたので、後でと思いまして今日になりました。大変面倒な贈り物をお一人でなされたのかと感心して見ました。
 貴女にあやかって子供がまた授かりますようにと祈っています。

 美しくない子供でも大勢いるのは悪くないものだと、今宵の子供達の活躍を見て思いました」

と、藤壺に送る。藤壺は読んで、

「こんな面倒なこと」

 と言って筆を執る。

「昨日は思うように参りませんでしたから、肩身が狭い思いをなさらなかったかと心配していました。