小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

かくれんぼ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
かくれんぼ
           
 旭山動物園のアザラシ館を見たことがあるだろうか。ひと頃、テレビに何度も映っていたものである。
 Mがアザラシ館のマリンウェイ(円柱水槽)を見たとき、自分が生まれてくるときのことを思い出したのである。
緑色のマリンウェイをとてつもなく長く伸ばして、それを宇宙から地球に架ける。そして、そのマリンウェイの中のMが地球に向かってゆっくりと下りるのである。
 Mは、これと同じ経験を学生時代にもしたことがある。

M、大学一年の四月。海に注ぐ大きな川に架かる橋を友人二人で渡っているときであった。
「毎年、川に落ちる学生がいるらしいよ」
友人のSがボツリと言った。
「ここにかよ。うそだろう?」
「先輩が言っていたので、詳しいことは知らないよ」
「どうやって落ちるんだよ。飛び込むのかよ。まだ寒いのに」
Mは、間抜けな学生もいるもんだと、呆れた。

それから一か月ほどたったとき、Sから飲み会の誘いを受けた。その会は先輩たちが多いので、余り気乗りはしなかったが、「ただ酒」が飲めると聞いて行ってみることにした。
 MとSは飲み会の会場である居酒屋に入り、入口近くに座った。しばらくたつとSが「ちょっと悪い」と言う言葉を残して急に席を立って奥の方へ行ってしまった。そして、すぐに戻ってきた。
「M、先輩がちょっと話があるらしんで、向こうに行くわ」
「仕方ないな」
「悪い!」
Sはそそくさと行ってしまった。
Mは話し相手がいなくなり退屈になった。いくらただ酒とはいえ、酒ばかり飲んでいてもつまらないと思い、隣で一人で飲んでいる先輩に話しかけてみることにした。
「ちょっといいですか?」
「いいよ。Sに逃げられたな? それより君、見ない顔だな」
「あ、Sの友だちのMと言います。よろしく」
「オレ、N、よろしく」
「一人で飲むの好きなんですか?」
Mは余計なことを言ってしまったと思ったが、遅かった。
「ん、・・・ 。そのときによるな。今日は君と同じで逃げられた口さ。ところで君は物事をストレートに言うね」
「すいません。実は後悔してます」
「はっはっは。おもしろい男だな。後悔しなくていいよ」
 初対面だったMとNだったが、酔いも手伝って、打ち解けるのに時間はかからなかった。
しばらくするとNがトイレに立った。しかし、なかなか戻って来なかった。Mは心配になり、トイレに行ってみることにした。Nはトイレにはいなかった。そのときMは何を思ったか、先輩は外にいると直感した。
 外に出てNを探したが、なかなか見つからない。一体どこに? 自分ならどこに隠れるだろうか? などと考えながら更に探した。すると背後からMを呼ぶ声がした。そして、その声がしだいにMに近づいて来た。Mはまずいと思った。とっさに隠れる場所を探したが、適当な場所が見つからない。そうこうしているうちに岸壁にたどり着いた。(ここに隠れる場所はないか?)
 Mは閃いた。(そうだ、あそこだ! あそこなら絶対見つからない)Mは確信した。それから、即行動に移した。岸壁と横付けの漁船の間に足から入った。下半身が濡れてしまった。この体勢で長時間隠れるのはしんどいと思い、体勢を入れ替えるため両腕に力を入れた。力が入らない! 何度も試みたが、だめだった。そのうち力尽きてしまった。......
 
Mがふと目を覚ますと、真上に星が見えた。周りがいやに騒々しい。Mを囲んで野次馬が群がっていたのである。それから救急車が到着して、すぐに近くの病院に運び込まれた。担架から手術台へと移された。そのときMは、風邪気味だったことをふと思い出して、この際だから診察をお願いした。...周りの医者や看護師たちは一様に呆れ果てて、言葉がなかった。

 Mはあのとき、力尽きて水中に沈んだところをたまたま、早朝、漁の準備をしていた漁師に助けられたのである。

 力尽きて水中に沈むとき、Mはアザラシになった。
作品名:かくれんぼ 作家名:mabo