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私の読む 「宇津保物語」  菊の宴

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菊の宴


 そうして。、東宮、十一月一日頃(十日までの間)
に残菊の宴を開かれた御子達に上達部の多くが参加した。

 正頼大将は参加をせず。春宮は博士や文人達多くにお前で詩文を作るように命じる。音楽に舞などが行われた。一応の演し物が終わって静かになったところで、あれやこれやと話が出て、そのとき東宮、

「今日ここにお出でになった方々の中に、誰が美しい娘を持っているだろうか。賭物をだして娘比べをしなさい、勝った者にその品を上げよう」

 左大臣の季明が、
「この中に娘を持っているのは、居ないようです、平中納言に娘がいますが、それもまだ幼いと聞いています」

 源中納言凉
「左大将正頼朝臣こそ多くの娘さんをお持ちです。世間で評判の人を集めて婿にされたと言うことですが、まだ一人二人、婿を取らずになお残ってお出でだそうです」

 季明
「私どもにも一人娘が御座います」

 平中納言正顯、東宮の従兄弟
「一人ばかりではないでしょう、大勢娘さんがいらっしゃると評判ですよ」

兵部卿の宮
「失礼な仰り方ですな」

 と言って、笑いになり、源中納言実忠を恨みのように言われるが、側にいるのも絶えられないという風に、実忠は返事をしない。 

 東宮
「この上野宮が為さった、あて宮強奪のことは、上手くいったと言うことですね。私をあて宮懸想人の仲間にさえ入れてくれないのは幸いなことでした」

 左大臣季明
「宮のお言葉がございませば、正頼は直ぐにも差し上げることでしょう」
「その様なことを面と向かっては言いにくいもので。事のついでと言うことが有ろうとまだ大将には申していない。あて宮には時々文を渡しているが、その都度返事はもらえません」

 宮の言葉を聞いて、源宰相実忠、兵部卿の宮、平中納言正顯たちは、万事休す、絶望だと思う。

 東宮がお召しになれば必ず入内されるのをどうしよう、と思わず心中がとまどい騒いで、何を見ても、何を聞いても分からず、ぼんやりとしてしまった。


絵解
 ここの画面は、春宮御所。左大臣、平中納言、源宰相、東宮坊の長官、殿上人、童など多数。


 そのような折に、左大将正頼が春宮に参内された。

 春宮
「不思議に咲いた時遅れの菊を見て貰おうと、あれこれの人を集めたが、貴方がお見えにならなくて淋しかった。どうして久しくお出でにならなかったのですか。神無月の衣換えの時に、体調を崩されたと聞きまして、お気の毒に思っていましたのですが」

 正頼
「其れは勿体ないことで、持病の脚気がおこり、立ち上がることが出来ずに、参上することが出来ませんでした。苦しい痛みが止まりましたので、人が私に菊の宴が開かれると告げましたので、驚いて、このように参内いたしました」

 春宮
「それはお気の毒なことでしたね。各文人を召して、一句ずつ作ったものを集めて一編の詩とする 連句を作ったのが此処にあるが、お出でにならなかったので、折角の秀句も貴方のお目にとまらなくては、闇の夜の錦という感じでした」

 と言って春宮は正頼に詩文をお見せになった。

 正頼は読んで、しきりに褒めちぎる。そうして色々な話を為さるついでに春宮は

「この頃話したいことがあるのだが、ゆっくりと話し合う機会が無くて、申し上げることが出来なかった」
「どういう事で御座いますか。今日のようにゆっくりとお話しできることは、そうそう御座いません。どんなことでしょうお聞きいたします」

「いや、これは中々言い難くて」
 と言われて、春宮は

「貴方の所には大勢お集まりになるらしい。自分もその中に入れてくれないか、入れて貰えないのが辛い。上野の宮のことなどを、誤って為さったなんて妬ましいと思ています。その様な謀に載せられたとは、そう上手くいくかと思いましてね」

 正頼は
「嗚呼勿体ない、。そのお言葉をお聞きする前に、お目に掛けられるような、ちゃんとした娘がありませばと存じながら、不器量な娘ばかりで御座いますので、恐縮いたしておりましたが、そう申して口約束を破ってばかりもいられません。考えて娘達を婿達に嫁がせました。

 上野宮にまでお目に掛けるような娘が御座いませんでしたので、やっと探して差し上げたのです」

 春宮
「さても、まだ美しい娘が残っておられると言う評判を聞きましたが。その娘を私が頂きたいと思っていることをお忘れでないように。

 そっとお話ししておいたはずですから、そうはいっても憶えていてくれるはずですよ」

「これは有り難いお言葉です。詰まらない娘達の中にも選り屑のような娘はおりますが、この神泉苑に御幸があって、近衛府中将凉、同じく佐仲忠が琴を弾いたことで、仲忠の朝臣に、一姫仁寿院の内親王を、涼朝臣には、正頼の九番目の娘を嫁がせるようにと、帝の仰せが御座いました」

「あて宮のことは現実の問題です。私は今貴方に申しているのです。あて宮に消息して以来久しい気がしています」

「帝の仰せに背くわけには参りませんので、困ってしまいます」

「そのために罪を科するようなことがあったら、私から奏上するだけですから。ご安心下さい」

「とても有り難い仰せです。娘はまだ幼う御座います。もう少し大人になりましたならば、お側に差し上げましょう」
 正頼が申し上げると、春宮は、

「これは嬉しいことで。あて宮にも絶えず消息文を送りたいと思いますが、不良な者とは思わないでください。はしたない事でもあるので、片腹痛くお思いになるだろうと存じまして。時々文を差し上げていますが、あて宮の母君(大宮)が不承知のように言っておられるようで」

 正頼は大変恐縮して
「そうでしたら、仰せの通りに致します」

 と言って、退出した。幾人かの人々(実忠、仲忠、涼、仲頼、行正等)肝も心も潰れるほど吃驚して苦しむ中、源宰相実忠青くなり、赤くなり、魂が抜けてしまった姿で春宮の前に侍するのを、父の左大臣が、可哀想にと実忠を見ていた。

絵解
 この画は、春宮が居る。御前に上達部、御子達、兵部卿の宮、左大臣、右大将、中納言お二人、源宰相実忠。

 春宮が食卓に向かう前部に、涼、仲忠、仲頼、行正、正頼の息子達を初め、四位五位、古参の進士、藤英等に引き出物を賜る。 

 次の画は、殿上人達と博士の一群れに、作詩の一つが提示される。みんなが詩(連句)を創って差し出す。垣下の雅楽士等と雅楽を楽しむ。文机を立てる。

 連句などを作詩した上達部に御子達、博士達までが、白袴、袿を賜る、絹布類も。

 この画は、春宮と正頼が話をしている。

 
 ということであるが、問題の九姫あて宮のことは未だに決めていない。どうすればよいのか、心が決まらないのに、春宮からの入内のことを度々言われるので、正頼はあて宮に聞いてみる。あて宮を何処に嫁に出そうかと思うのだが、春宮が、しばしば入内の催促をするので、正頼は北方の宮に話をする。

「あて宮の婿をどうしようかと考えているが、春宮が、婿にはまだ残っている私がいることを忘れないでと仰るが、どうするか。春宮から消息文が今でも来るのか」

「ありますようで」