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私の読む「宇津保物語」第六巻 吹上 上

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「明後日、仲頼様はお出かけになります。供の者などは如何致しましょう」

 と相談をすると、忠保と北方は、

「仕方がないよ、心配することはない、先日の節会に腰にした佩刀(はかし)を担保にして金を借りよう」
 仲頼妻は
「そのようなことをして、正月の節会などのときにはどうなさいます。すぐに返して貰うようなこと、とてもお出来にはならないでしょう、とんでもないことです」

「我が荘の稲が今年沢山収穫があるならば、たやすいことではないか。こうでもしないと仲頼は恥をさらすことになる」

 御佩刀をもって、大蔵省の史生の家に銭15貫を借りに人をやって、供人を雇う費用と道中の食事のためにその金を使う。娘に忠保は、

「食べ物など綺麗にさせなさいよ。お金がないということで食事の物などが見苦しいものであっては、引け目を感じるでしょう。

 世の中は平等で、仲頼さえこちらのことを考えてくださるならば、私は満足しています。財宝を惜しみなく遣われる良家には見向きも為さらないで、このような貧しいところに来てくださっておられるので、恥はかかないで済んでいます」

 と娘に言う。

 神南備種松は3月3日の節句の宴をこのように盛大に催した。涼は三人、仲頼・仲忠・行正の前に、銀の折敷きを金の台を据えて置き、花の文様のある綾に薄い織物を重ねて打敷(敷物)として、蓮をかたどった銀の台盤二つを添えた。唐の製法で作った菓子の花が普通とは違った感じである。

 梅・紅梅・柳・桜・の一折敷、藤・躑躅・山吹・の一折敷、最後に緑の松。五葉・すみひろ一折敷、造花としては見事で、卯の花の色は春に咲くのにも劣らない。干物・果物・餅など、調えた姿が珍しい物ばかりである。山・海・河地上にあるものは総て並べられてある。

 沈の台盤二つ優雅に薄物二枚を重ねて儀式に適ったお膳である。(この辺の本文は意味が通らない、誤脱があったのではとういう説)

 官位の高い者には、紫檀の折敷四つを据える。酒が出る。杯が珍しいものである。客人の供の者には、
少将仲頼の供は、松方、しまのやすより、おおやどの貞松、山部の員業(かずなり)、舎人8人、東遊びの舞に長ずる舎人(節舎人)8人である。
 この者達は、学芸を専門とする者、舞人で。声が良くて器量の良い者を選んである。
 馬副、小舎人、侍、姿を揃え、装束を調えて、男ぶりが良い者を選んで、多くいた。

 それらの前には机を置いて、盛大な饗応をした。

 こうして宴会が始まった。

 みんなが眼前の折敷などを見て、仲忠は花園の胡蝶に掛けて、(折敷の柄である)

 花ぞのに朝夕わかず居る蝶を
松の林はねたく見るらむ
(花園に終日遊ぶ蝶を見て、松林は妬ましいと見ることであろうよ)

 仲頼、林の鴬に掛けて、
 
 常磐なるはやしにうつる鴬を
塒の花もつらくきくらむ
(鴬が松林に移ってしまったので、塒であった花は、鴬の遠くなく声を聞いて、辛いと思うだろう)

 涼は、絵の水の下の魚を題にして

 そこ清くながるゝ水にすむ魚の
たまれる沼をいかゞ見るらん
(底も清く流れる水に棲む魚は、流れないで溜まっている沼をなんと見るだろう)

 行正は、山の鳥ども、を見て

 葦しげる嶋より巣立つ鳥どもの
花のはやしにあそぶ春哉
(葦の繁る小島から巣立った鳥たちは、春になって美しく花の林に遊んでいるよ)

 そこで、仲忠は主の涼に、「やどもり風」の名の琴を差し上げる。

「私の琴は昔彼方此方に散らばりましたが、この、やどもり風、と名付けられました琴は、貴方に差し上げようと一つだけ残しておいたものです」 

 涼は歓喜のあまり、礼舞して、受け取りすぐに曲一つを演奏する。その演奏を聴いて、仲忠は大いに喜んだ。

「これは有り難い演奏であります。これは昔仲忠の祖父と同じ演奏法の方がおられて、その方から伝授されたのでしょう」
 と、畏れおおいことで驚く。涼は、

「この琴は、まず、貴方が弾かれるのが宜しいです」

「琴の演奏は久しくしていませんので、弾くなどとは思いも寄りませんでした」
 などと、さりげなく答えた。

 そこで、主の涼も客の仲頼達も一緒に合奏して、遊び暮らす。仲頼は、

「帝の御前で、もてる技量を出し尽くして合奏をする時でも、今日のように素晴らしい音楽を聴かないな。実に珍しいことであるな。涼が弾く手で多くの者立ちの弾き方が引っ張られている」

 行正、

「正頼左大将が春日でなさった遊びの音楽が近頃珍しいと思っていましたが、それにも増して今日のこの遊びの音楽は、この上なく勝れて見事だと思います」

 仲頼少将は、このように音楽の名人が多く集まり面白く一日遊ぶのであるが、仲頼の心の中にはあて宮を忘れられないものが残っていて、涼に言う、

「このような楽しいところに、どうして女が一人もいない、言うならば凄い御暮らしをなさるのですか。天下の楽しみを一人で見るのは甲斐無いことです。
一緒に見る女性があってこそ、張り合いが出るものです。こういう素晴らしいところをただ一人で御覧になるのは、秋の池に月が映らないように、物足りなくは思いませんか」

 主の君涼は

「まことに住み難いところとは思っていますが、このように都から離れたこんな蓬の里のような住み家を見せたいとは思わないし、見て貰う人もいないので、好きこのんでするわけでもない住み家に籠もって長年を過ごしました。世の中には必要とされない者はいませんので、このようなところまで思いかけずにお出でに成られた」

少将仲頼は、

「私が都で見ますのに、何方が御覧になっても特別に偏ったというのではなく十人並みの女は少なくはないようです。身分も相当で、理解のある親を持った娘達は多いが、男の少ない所なので、私のような怪しげな者にも不相応に良い女が大勢寄ってきて、私をうぬぼれさせるようです。
 
 一般に良い女と言っても、妻一人であるのは、良くない女二人を妻にしているよりも劣るものだから、我も我もと男は誰もが競って、二人、三人と妻にしています」

「大変大勢の女の中にも、大将正頼殿の、または、宮内卿吉保殿の娘ごは、とても美しく心に響く方とお聞きしております」

「宮内卿の娘のことは知りません。大将正頼殿の子供は、お美しい方ばかりです。男の方女の方総てが人より相当勝れておいでです。その中でも男の方では七郎の侍従仲純、女の方では九姫に当たるかたが、大変に勝れておいでになります。この九姫を只今天下の男達は見過ごすことが出来ないでおります。色々な方が、あれやこれやと懸想文を送られますが、父君のお考えもあるようですから、言い寄っても仕方が無い、と知っていても男達は懸想文を送り続ける。実に不思議な話です。
 お姿が美しく、心も美しい、この辺のところが不思議なところであります」

 仲忠

「実に不思議なことは、大臣の職から下がられた、致仕大臣三春高基殿が、開かずの御蔵を開いて、孫のような姫を得よう、とお宝を使い果たされたことは有名であります。
 珍しいということであれば、もう一つ、この春に