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私の読む「宇津保物語」第 四巻  嵯峨院ー2

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こうして、男の子を失った我が家をつくづくと北方は眺めて、北方は昔より美人の名が通って、清らかで趣味も豊かな賢い女と評判の人であった。

 娘の袖君も年頃になり、色々な人から婿をという話があったが、その中に、

 正頼の子供の、三郎中将の君祐純、次郎の師純兵部卿、馬寮の長官、この四人は北方を所望する。が、北方は近くで見るとさらに美しい。

 真砂君を恋しく思っておられるときである、

 きくだにもゆゝしき道と思ひしを
君もゆきぬと見るが悲しさ
(耳にするだけでも忌々しい黄泉路の旅だと思っていたのに、そこに可愛い真砂君が行ったのだと思うととても悲しい)

 袖君

 ならびゐて遊びし物を鳰鳥(におとり)の
涙の池にひとりゆくかな
(鳰鳥(におとり)のようにいつも遊んだものを、私を残してただ一人涙の池に行ってしまったことよ)

 どうしても真砂君のことを始終思い出すのか、母君は長歌を

 思へども 悲しき物は 池水の のどけきことを

結びつゝ 鴛鴦(おし)の子どもも ならびゐて 
 うきもつらきも もろともに 淵にも瀬にも

 おくれじと 契りし物を 

(末永くと言い交わし約束する。鴛鴦は渡り鳥で雄雌離れないで二羽が常に一緒に泳いでいる。自分の子どもも二人どんなに世の中が変わっても生死を共にしようと誓ったのに)

 いつのまに 花のいろ/\ 咲きまがふ 春の

 林に うつりゐて あとだにみえず なりゆけば

(移り気の男君はいつか美しく咲く様々な花の林に行ってしまって帰ってこない)
 
 あくる朝を 眺めつつ嵐の風の 音だに 聞こえ

 やすると

(人が来るかと眺め、せめて音に聞こえるかと)

 待ちくらし 暮行ときは とぶ鳥の 影や見ゆる

 と たのみつゝ まつの葉しげき 奥山の 深く

 かなしとおもひつゝ 月日のゆくも 知らぬまに

 双葉に生ひし 撫子を くる朝ごとに かきなで

 て いつしか色の うすきこき さかりをだにも

 見むとのみ 思ひしほどに うちはへて 親を戀

 ひつゝ 泣きためし からくれなゐの

(一人は濃く一人は淡くとりどりに美しいい成長ぶりを見たい物と楽しみに思っていたのに、日夜夜ごとに繰り返し親を恋い悲しみ嘆く真砂の涙は、たまり溜まって紅の海になった) 

 待ちくらし 暮行ときは とぶ鳥の 影や見ゆる と たのみつゝ まつの葉しげき 奥山の 深く

 かなし とおもひつゝ 月日のゆくも 知らぬま

 に 双葉に生ひし 撫子を くる朝ごとに かき

 なでて いつしか色の うすきこき さかりをだ

 にも 見むとのみ 思ひしほどに

 (一人は濃く一人は淡くとりどりに美しいい成長 ぶりを見たい物と楽しみに思っていたのに)

 うちはへて 親を戀ひつゝ 泣きためし からく

 れなゐの
 (日夜夜ごとに繰り返し親を恋い悲しみ嘆く真砂 の涙は、たまり溜まって紅の海になった) 

 海をいでて 黄なる泉に おり立ちて いさごの

 波を うちそむき 悲しき岸に つきにけり
 (終に真砂はこの世の海を出て、黄泉に降りて行 って、砂に波が打ち寄せるこちらの岸に背を向け て、悲しいあの世の岸彼岸に行ってしまった)

 よる/\ごとに むば玉の 衣の下に ふしわた
 
 り しのゝめごとに 起き居つゝ 花の木もとに

 遊びこし わが子のひとり ゆく道にえだなる雪
 の 消ゆる間も おくれんとやは おもほえし
 (真っ暗な夜毎に衣の下に臥し、東雲と共に起き て花の木の下で遊んでいた我が子真砂が、さびし くひとり旅立ってしまった、ああその人生の途上、 枝の雪が消える暫くの間でも、私はこの子の死に 遅れて、生きようとは思いもしなかったのに)  
 宿の板間は 荒れまさり 木のもとはかく もり

 ぬれど 玉の枝にも ありしかば 蝶鳥だにぞか

 よひこし  
 (このあばら屋も昔は玉のうてなで、そこには玉 の枝もあったから、それに蝶や鳥さえよくやって 来た)

 そら行雲の よそにても ありやとはば 深草の

 峯の霞と なりましや 
 (今では遠く空を行く雲のようによそよそしくな っても、父君が真砂は無事かとお尋ねになったら、 深草の峯の霞のように消えて死んでしまうことは なかったろうものを)(万葉集2132,古今集 831から)

 猶たらちめを おもふには ながめて暮らす 春

 の日の 日暮しまでに たつ雁の かずも数には

 ありも有るかな

 と、北方は長歌を詠って嘆かれる。

 
 こうしているうちに、霜月(十一月)中の卯の日(十一月二十三日)新嘗会の頃に東宮からあて宮に、

 ねぎごとを神もおどろくころしもや
君が心は静けかるらむ
(神に願う人が多くて、神も驚いておられるこの頃、貴女のお心は満ち足りて静かでいらっしゃるでしょう)

 あて宮

 千早振神のまへにはあだ人も
思うはぬ事を祈るものかは
(神のお前には、どんな真心のない浮気者のあだ人でも、思ってもいないことはお祈りいたしませんよ)

 雪が降るのを見て東宮からあて宮へ、

 数ならぬ身は水のうへの雪なれや
       涙のうへにふれどかひなき 
(貴女にとっては数の中にも入らない私は、水の上に降る雪ですね。恋慕う涙の上に凝った涙の雪が降っても消えてしまって甲斐がないのです)

 この歌を御覧になって、軽蔑なさらないでしょうね。

 と言われたので、あて宮は、

 水のうへに雪は山ともつもりなむ
うきてのみふる人のかひなさ
(水の上に雪は山と積もりましょう、でも、浮いて降る軽い雪ですから消えるのも仕方がないでしょう)

 なんとお見苦しいこと。と返事をする。

 右大将兼雅は五節の舞姫を一人お出しになって、内裏へ参内した夜に、

 百敷きにさふる乙女の袖のいろも
君しそめねばいかにとぞみる
(宮中に上がった五節の舞姫の美しい袖の色彩も、あて宮が染めたのでなくては、何とも致し方がありません)

 甲斐のないことです。歌を送った、

 あて宮は、

 ひとしほも染むべき物か
      むらさきの        雲よりふれる乙女なりとも
(ただ一度だけでも染めることなどは致しませんよ。たとえ紫の雲から降ってくる天人の乙女であったとしても)  

 そういう思いを私に掛けるとは失礼ですよ。

 兵部卿の親王、小忌(おみ)の役に当たり、内裏から、
(小忌は新嘗会や大嘗会の大祀の時、斎戒を厳にして、小忌衣を着て神に奉仕する。その役に当たる人を小忌(おみ)の役という)

 色ふかくすれる衣をきる時は
みね人さへもおもはゆるかな
(色濃く摺り込んだ小忌衣を着ると、まだお会いしないあて宮まで懐かしく思い出されますよ)

 いつ貴女をお忘れすることが出来ましょう、

 とあて宮に送る。あて宮は、