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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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『 ご縁がありましたら 』

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袖すり合うも多生の縁、と言います。
腐れ縁、という言い方もございます。
この国では、縁が円満の秘訣です。


「お前のせいで、人生滅茶滅茶」
別れ際の彼の言葉を思い出して、私は憂鬱になった。
そもそも、あんたと会ったこと自体、人生の過ち。
でも、と私は考えた。人生って、長いからなぁ。

もう本当に、長すぎるの人生って。

現在は、人生80年の時代まで来ちゃって、せっかく45年まで縮んだ意味がない。
女性なんてね、25年しか華なんて無くてね。それまでに全て決めないと、残りの人生が暇でね。男性なんてね、25年しか猶予なんて無くてね。それまでに全て決まらないと、残りの人生が暇でね。

年を取ったら、旦那様と手を繋いで公園を散歩して、ずぅっと一緒に暮らすんだ-。なんて、小学生時代から憂鬱になる洗脳されてね、学校なんて暇な人生をどう過ごすかの教育だから。とにかく、私は暇つぶしに疲れた人が、ひつまぶしを作ったら商品として成立してしまったかのような人生を送っている。

何にしても、運命の赤い糸話を考えるのも飽きちゃって、それを切らずにどうやって上手くほどくか。それから、旅先で袖がすり合う可能性について考えてみて、縁が腐る前に気付く方法について考えてみてる。

子供を育て上げるのと、畑を耕すのと、海に潜るのと、あとは川で洗濯するのと―――――。
他には、女性の社会進出のために声を上げ、その波にうまく乗って社会の荒波サーファーになるとか。男なら働くでしょ、女なら産むでしょ、それを逃すと原点を探す旅に出て、ナチュラル志向を求める必要があるでしょ。

でっかいリュックにアメリカ大陸。ヒッチハイクにワイルド帰国。でもねぇ・・・ここは小さい島国だから、それもいいような気がするし。そもそも、腐れ縁で人生滅茶滅茶になる前に、ワイルドな旅行しておけば良かった。

もう本当に、遅すぎるの人生なんて。

時間が経つのも遅いし、何をするのにも遅いし、怒るのにも遅いし、笑うのにも遅いの。
あらそぅ。なんでも、ちらっと見て肩をすくめる他、口を開くのにも遅いのよ女のミドルエイジなんて。

それから、どうして私は人が好きじゃないのかしら、と考えることにした。
すぐに答えは出た。人がそこに居るから。

独身者は読心術者。ツーカー相手を探すことを諦め、万人受けを目指す者ども。
それから私は、携帯電話を取りだし、旦那さんの名前を選んでコールした。

「あ、お父さん? 今から帰る」

誰でも、仮想現実と架空人物の中で生活している。私の現実は真実で、架空の旦那は社会生活の成立のためにある。主婦達に教えてあげる、どの道、ゴールは同じだと。

それから私は折り返し地点にタッチして、歩き出した。
行きはよいよい 帰りは怖い
行きよりも短いといいな。風景と地面が流れるような感覚に囚われ、私の足の裏は地面を踏んだ。大丈夫、帰りは戻るだけだから。

私はまた赤子に還るのだろうか。
二つの瞳に涙が盛りあがって、ぽたぽた垂れた。

自宅には幸い同居者がいて、それが私の人嫌いの原因だった。
もしもご縁がございましたら、袖をすり合わせてください。
渡る世間に鬼はないことを、証明して差し上げます。

あ、これにしよう。私のキャッチフレーズ。
良いことを思い付いたと私は思い、少し憂鬱になった。
腐れ縁になったら、特に縁を切る必要もほどく必要もないような気がした。

「ただいま」

玄関の匂いは自宅の匂い。今度、アロマの香りにしてやる。
私は、疲れ果てていたことも忘れて、居間のドアを開けた。






~ おわり ~