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超絶勇者ブレイブマン その19

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「お前、自分で何言ってるのか分かってるのか?」
 驚いて言ったのは希望であった。ふざけているのかとも思ったが、どこか本気であるかのようにも思えた。だからこそ理解できないのだ。
「もちろん」
「動機がないじゃないか。なんだって、お前が」
「動機、動機ねえ……。くっくっく、にゃーはっはっは! そんなのお前ら人類をこうやって混乱に陥れるために決まっているニャ! それ以上の動機など不要!
 全てはこの地獄のミャーコの策略なのニャ! どうだ、参ったか、人間ども!」
「ま、まるでついていけん……」
 希望には、このヒーローごっこのノリがいまいち分からないし、両腕を組んで高らかに自白する愛がどこまで本気で言っているのかも分からなかった。そこで勇気が愛をフォローするかのように言った。
「だけどさ、動機云々言うんだったら、正義にだってちゃんとした動機なんてないんじゃないか? やっぱり全てはお前の思い込みなのかもしれないぞ」
「いや……」
 それでも希望は食い下がって言った。一度疑いを口にしてしまったからには、そう簡単に引くわけにはいかなかった。
「休憩時間はたったの5分だけだったんだろ? その間に、この教室から体育館まで往復することなんてできるのかよ。多分往復なら、その倍の時間はかかるぜ」
「それもまあ、当然の疑問だニャ。じゃあ、可恋ちゃん。ちょっと時計を見ていてくれるかな」
「えっ、時計を……? う、うん、分かったよ」
 可恋は教室の時計を見上げた。ちょうど秒針が真上を指そうとしていた。
 愛はクラウチングスタートのような体勢をとっていたが、陸上経験がないため、利き足である右脚を前に出すというミスを犯していた。そのミスに勇気と正義だけは気付いたようであったが、指摘するよりも速く彼女は駆け出した。
 その速さは、まさに疾風迅雷。……とは言い過ぎだとしても、フォームを間違えていながら陸上部並のスタートダッシュをしたことは驚異的である。それにしても、セーラー服なのでみっともないのだが。
 愛は自分が光になったつもりで駆けた。そして、体育館はこの廊下の先だ、というところまで来た。さらに足に力を込めて廊下を抜ける。
「バスケ部! ちょっとボールを一つ借りるよ」
「へ? まあ、別にいっぱいあるからいいけど」
 バスケ部の女子の内のひとりが闖入者に目を白黒させながら応えた。月曜日のこの時間帯にバスケ部が体育館で活動していることを愛は知っていた。体育館倉庫のバスケットボールを手にし、再び愛は走り出した。
 4分。可恋が時計を見上げてから、4分経った。まだ愛は戻ってこない。その間も、希望と正義は言い争っていた。黙って待っていられるようなら、初めから喧嘩を仕掛けなどしていない。
 そして、4分40秒を過ぎようとしたとき、廊下を駆ける音が聞こえてきた。そのまま滑り込むように、愛は教室に駆け戻ってきたのだ。
「タイムは!?」
「よ、4分50秒くらい、かな……」
 可恋が愛にタイムを告げた。愛は駆け戻った勢いのまま言った。
「はぁはぁ……、ほ、ほら、見て……。バスケ部から、ボール、借りてきたよ……。ぜーはー、だ、だから、ほら、あれだよ。わ、私でもできるじゃん、その、あれがさ……」
「め、めちゃくちゃ息切れしてる上に、頭に酸素いってないんじゃないのか……?」
 しかし、それは愛にも犯行が可能であったということを示すには十分であった。セーラー服のまま走って汗だくになりながらも、愛はそれを証明してみせたのだ。