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私は、小さい頃から夢を見ていました。
時には極彩色の夢を。そして、時には怪物に追われる夢を。

それらは私の精神を日に日に疲れさせ『心地よい』というには程遠いものでした。
そして『夢』は、形を変え日にちを変え私にそれをずっと見させているのです。

よく『夢』は願望の現れとか、自分が「こうだ!」と思えば制御も容易い、とか聞いたことがあります。
けれど『夢』は、どれもこれも私の思うとおりにさせてはくれません。

それ自体がまるで何かの『意志』を持っているような気がして。
そして私もいつかは『夢』に取り込まれ『夢』の住人に、なってしまうのではないのかと怖くてならないのです。

私は夜が来るのが怖い。
眠るのが、とても怖いのです。

「あら…?」
ふと気がつけば私はお花畑にいました。見渡せば白い花、白い花、何処を見ても白い花のお花畑でした。
そして、白い花が咲いていると認識できるくらいに薄いもやが周囲にかかっています。
「ここは、どこなのかしら?」
辺りを見渡しても私には、ここが何処なのか分かりません。
「ゆめ、なのかしら」
分かりきったことをつぶやきました。
けれど、私の見た夢の中とは少し違っているような気がするのです。
その代わりにちっとも『怖さ』を感じないのです。
私はもう一度、辺りを見回しました。
すると……彼方に薄いぼんやりとした人影が見えました。
それは、ゆっくりと私との『距離』を縮めてきます。
私はビックリしました。だって私の夢に『人』が出てきたことは、一度もなかったのです。
「誰…?」
私はまたつぶやきました。
人影は距離が縮まる毎にその容姿を現しました。
もやに隠れたその容姿はどうやら黒い色の何かを着ているようだということ、そしてその人影が私と同じ背格好なのだ、と気づきました。
「誰……?」
私は目を凝らし思い切ってその人影に声をかけました。

―――すると。
もやが急に晴れ、ゆっくりとその人が私の目の前に現れました。私は驚きで息を呑みました。
だってそこには黒いスーツを着込んだ、黒髪の少年が立っていたのです。
それは、まるで夜の住人のようでした。この白い世界にはそぐわない程に上から下まで見事に黒いのです。
「…アンタ…」
その少年が声をかけました。
私は驚いて(声をかけられるとは思わなかったので)その言葉に後ずさりしました。
「ココに迷い込んだのか?」
「え?」
後ずさるのをやめて私は、聞き返します。
「どういうこと?」
しかし少年はそれ以上、言葉を返すことはなく黙ってじっと私を見ているようでした。少年の見る瞳はその姿と一緒で、深淵の色をしていました。
そして。少年は口を開きました。
「なんでココにいるのか、分からないのか?」
私はびっくりしてしまいました。
「どう……」
「アンタは自分の名前さえ覚えてないだろう?」
「えっ?!」
私はいきなり言われたその言葉になんとなく腹がたちました。
「さっきから何いってるのよ?それに私の言葉を遮ってばかりじゃない?!あなたは誰なの?!」
少年は無言でした。その深淵の瞳で、私を見透かすように見つめているだけです。
その瞳を見ているだけで、私は無性に腹ただしさが薄れていくのを感じました。
(……怖い)
私は無言の少年から再び後ずさりしました。

この子、怖い……!!
得体の知れない怖さ。
私は目の前の少年から逃れるために駆け出しました。

はぁ……はぁ………っ

私は走りました。
走るたびに花園の白い花びらが散りました。
けれど、そんなことは知ったことではありませんでした。
あの、あの少年が怖い。
あの、見透かすような深淵の瞳も。
そして。何よりココにいるのが怖い。

はぁ……はぁ……はぁ……っ。

私は走りました。走りすぎて肺がとても痛い。
でもでもでもでもでもでも。
幻想のように周囲は、白くけぶって私が走る度に白い花びらが舞いました。

頭の中が混乱しました。

ココは、何処なの?
――――――私、は。私は?

「……っ!」
足が、止まりました。
私は咽喉から出そうになる言葉を必死に飲み込みました。
大きく目を見開いてその方向を凝視しました。
そこには、さっきの少年がいます。
ゆらり、と立ち上る陽炎のように。
(どうし、て)
「無駄だよ」
少年が唐突に言葉を紡ぎました。
「アンタは、もう死んでるんだ。」

アンタハ、モウ、死ンデルンダ。

その氷の言葉は私の心臓が止まりそうになりました。
私は力なく首を振ります。

……そんなの、そんなのって。
「私は…っ」
私は、だって。こうして生きてるじゃないの?
自分の足で立って、そしてこうして息もしてるじゃないの。
「もう死んでいるんだよ。現にアンタは自分の名前を覚えていないじゃな
いか?」
その言葉に私はハッとしました。
そうです。私は『名前』を、自分の姿を、覚えていません。
―――では、ココにいる『私』は誰なの?

私は少年の瞳を恐る恐るまっすぐと、見つめました。
深淵の瞳に私の姿が映っています。白いこの花園と同じ白い着物を着て…そして無意識に自分の体を手で確認するように触りました。

顔は、しわを刻んでいる。
肌はくすんで弾力などない。
ビデオのコマ送りのように『記憶』が、逆戻りし始めて。

最後に止まったのは『血だらけの』。
幻のような昔の『私』。
ーーーそして。
一瞬の光が頭の中で爆発しました。

何もかも。
そう、思い出しました。

『私』はもう…………………………………………死んでいるのね。

コレデ、モウ、怖イ夢ヲ見ナクテ、済ム。

少年は静かに白い空を見上げていた。
その深淵の瞳に何の感情もなかった。
「もう……迷うなよ」
ただひと言だけ、そうつぶやいた。

―――そして、後には白い空間があるばかり。

fin.
作品名: 作家名:ぐるり