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たららんち
たららんち
novelistID. 53487
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なりきり少年

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白いジャージの男の子



 今日は、雨が降っているから犬の散歩はできないかもしれない。
 そう思っていたけど、なんと空から日の光が降り注ぎ始めたではないか。これは、きっと私に散歩をしなさいとお空が気を利かせてくれたに違いない。
 そうして私は、犬の首にリードを付けて(気合が入りすぎて少しきつくしてしまった)、お気に入りのスニーカーを履いて、意気揚々と外に繰り出した。
 ここのところ、雨ばかりで、気分も受験勉強の先行きも暗かったので、とても気分がいい。このまま晴れていてくれれば、私は間違いなく希望の大学に受かるのではないか。
 お気に入りの鼻歌を歌いながらいつもの散歩コースである公園を通ると、突然大声が聞こえてきた。
「ばきゅーん!」
 見ると、小学校高学年くらいの男の子たちが、遊具やら木の陰やらで隠れながら傘を構えていた。
「アメリカよ! 日米安保条約はどうなった!」
 うわ、懐かしい単語が出てきた。今日、習ったのかな。ちょっと意味が違う気がするけど。
 なんて考えながら、少しその様子を見てみようと思い、立ち止まった。我が家の愛犬は「おいどうした、行こうぜおい」とリードを引っ張り、それでも動かない私を恨めしそうに見てきた。
 ごめんよ、ちょっとだけ見させてね。
 そう目で訴えたが、いかんせん彼にはわかりそうもない。
「待ってくれ! 撃つな!」
 愛犬と戯れていると、アメリカ兵のつもりの全身赤ジャージ少年が全身白ジャージ少年(二人)に向かって懇願していた。
 どうやら、赤ジャージはアメリカを裏切って日本の味方になるらしい。
 なんだか、凝っているなと思っていたら、アメリカ兵は突然傘を構えだし、白コンビの片割れを「ばきゅーん!」と打ち抜いてしまった。裏切りの裏切りだ。
 力なく倒れる白ジャージ。演技が上手だな、とどうでもいいことを思った。
 けれど、あの白ジャージに雨上がりの泥はまずいんじゃ……。
 私が心配していると、白の生き残りが怒りだして、公園のど真ん中を激走し始めた。アメリカ兵、もといジャージ少年ズたちは白に向かって傘を懸命に構えて撃ち抜こうとするが、全然当たっていない様子。どこからか、小さめの声で「あいつずるい」と言っているのが聞こえた。
 それが聞こえたのか、聞こえなかったのかはさておき、白君は脚に銃撃を受けた様子で、突然転んでしまった。とても痛そうだ。
 そしてジャージ少年ズが白君を囲い、彼の頭を撃ち抜いてしまった。
 力なく倒れる白君。それを見て満足そうな先ほどの赤ジャージ。
 だが、笑っていられるのも今のうちだろう。戦争に限らず、一度でも味方を裏切ったとすれば、その人は信頼を無くしてしまう。たとえ演技だとしても、それを理解してくれる人がいないのが問題だ。
 案の定、赤君は他のジャージ少年ズに囲まれる。わけもわからず戸惑っている赤君に、ジャージ少年ズは冷たく言い放った。
「貴様は生かせてはおけない。いつ、本当に裏切るかわからないからな」
 声変わりもしていないのに、低めの声を出そうとして頑張っている。微笑ましいことこの上ない。
 そうして、銃声が響いた。赤君は倒れ、いつのまにやらほかの日本軍もやられていたようで、戦争は終結したようだった。
 だが、本当の戦争はきっと、それぞれ家に帰ってから始まるだろう。
 赤白黒、いろいろなジャージの色があるが、どれもこれも泥んこだ。
 はたして、母親は日本軍のように簡単に倒せるのかな?
 また歩きだした私は、白君が倒れる前に見つめていた虹を見ながら、そう思った。

作品名:なりきり少年 作家名:たららんち