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超絶勇者ブレイブマン その12

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 それから3時間後のことである。愛の携帯に勇気からの電話が着信された。とあるデパートにあるペットショップで、子猫を飼ってもいいと言う女性が見付かったそうだ。
 愛と未来は一度公園に戻り、子猫のダンボールを持って、そのデパートに向かうことになった。
「あ、愛ちゃん。早かったね。女性はデパート内の喫茶店で待っててもらってるから、今呼んでくるね」
 勇気はデパートの入り口前で待っていた。それからすぐに、その言葉の通り、女性を連れてきた。おそらく大学生か、あるいは社会に出たばかりだと思われる。
「わぁ〜、この子がそうなのね! 産まれたばかりって感じで、やっぱり可愛いわぁ。本当に私が飼ってもいいのね?」と、子猫を見るなり上機嫌な様子であった。
「はい、是非よろしくお願いします。俺たちも、この子が保健所に連れて行かれたりしたら嫌ですから」
「そうよねえ、ペットショップの子たちも可愛かったけど、こんな小さい子じゃ可哀想過ぎるものね」
「ありがとうございます。私も嬉しいです」と言ったのは愛である。続いて、可恋と未来もお礼を言った。
 信じられないほど、とんとん拍子に話が進み、そのまま4人も解散することになった。未来も最後に、勇気たち3人にお礼を言って去っていった。
「それじゃ、またねー。何かあったらすぐ電話するからね」
 愛はいつの間にか電話番号を交換していたらしい。そういう気の回し方は、可恋にも勇気にもできないことであろう。3人とも自分にできることを精一杯にやったのだ。
 その夜、勇気は自分の家に帰り、一息ついていた。明日は月曜日で剣道部の活動もあるが、その前に道場の手伝いをしなければならない。
 それが終わったら、今日はすぐに休もう。そう思っていると、窓からまたコツコツという音が聴こえた。まさかと思って見ると、やはりそこに彼女はいた。
「勇気くん、あーけーてー!」
「だから、何やってんの! もう仕方ないなあ、愛ちゃんは」
 呆れながら窓を開けると、愛は雪崩れ込むように入ってきた。道場の時間なので、彼女がここにいること自体には不思議はないのだが。
「愛ちゃん、いいかげんにしないと脚立を隠すよ」
「えー、じゃあ、私、家から脚立持ってこないといけないの?」
「普通に玄関から入りなよ……」
 いつも通りじゃれ合っているだけなので、本当はどちらでも良かったが、いつか本当に怪我をするかもしれないなと勇気は思った。
 しかし、愛の運動神経なら心配いらないかもしれないと同時に思った。
「でさ、まだ道場まで時間あるよね。今、いいかな?」
 愛は真剣な顔で勇気と向きあった。ふざけることが多いだけで、愛は根は真面目なのだ。何か重大な話があるに違いないと勇気は思った。
「あ、そんなに気張らなくてもいいんだけど。ただ、今日のことで少し思ったことがあって。先に言っておくけど、今日の私たちは正しいことをしたと思ってるよ」
「……何か他に正しくないことがあるってこと?」
「というか、何が正しいのかなって考えちゃって。ただ私が思っただけだから、そんなに気にしないで聞いてね。
 えーっと、その、勇気くんは野良猫って一日に何匹くらい増えてると思う?」
「何匹って、そんなの想像つかないよ」
「だよね。調べた限り、日本には100万匹以上の野良猫がいるらしいけど、それがどんどん増えていったらどうなるのかなって。
 それに、産まれた子猫の内、一体何匹が生き残ってるのかなって」
「要点がよく分からないけど」
「だからさ、野良猫の中には飢えて死んじゃう子猫もいっぱいいるはずだよね? それを救うことってできないのかな」
「全部を保護するなんて無理だし、むしろ増えないように餌付けしちゃ駄目だって言うよね。数が増えれば、それだけゴミ漁りとかされるわけだし」
「じゃあ、見殺しにするしかないってこと? ……なんてね、まあ人間が生き物の生き死にを自由にしようなんておこがましいんだけど。
 ともかく私たちはたまたま目に入った猫のことだけをなんとかしようとした。本当はもっと多くの猫が飢えて死んでるのにね」
「つまりどういうこと?」
「だから、ちょっと思っただけだって。飼い猫に対して去勢とか避妊手術とかするのも、人間の自分勝手じゃないかなあとか。
 いや、そもそも生き物を飼うってこと自体、人間のエゴだよね。だから、私も猫好きだけど、自分で飼うことはしたくないかなとか。
 なのに、可恋ちゃんに猫を飼うように言った私ってやっぱり悪だなあとか。……あはは、自分でも何言ってるんだか、全然分かんないや」
「うーん……」
 愛は誤魔化すように笑って言ったが、勇気は一笑に付すことはできないと思った。無自覚かもしれないが、愛はきっと、勇気の正義を試しているのだ。
 人間は猫に対して、どう接していくのが正しいのか? そう問いかけられているのと同じであった。
 いや、猫だけに限らないのかもしれない。自分たちが知らないだけで、他にも苦しんでいる動物たちがいるはずなのだから。そして、それは動物にも限らない。
「俺もよく分からないけど、何もしないのが正しいなんてことはないと思う。せめて俺たちが今日したように目の前で困っている猫がいれば救うべきだと思う」
「勇気くんらしい答えだね」
 愛は満足そうにしていたが、勇気はその晩、しばらく考え事をしていて眠れなかった。
 目の前に見えるものだけを救うのが本当に正義なのか? しかし、もしそうなら都合の悪いものから目を逸らし続ければ正義だということになる。
 考え疲れて、いつの間にか眠っていた。答えは見付からなかった。