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超絶勇者ブレイブマン その10

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 勇気の携帯に交番からの電話があったのは、その翌日の昼頃であった。元飼い主が見付かったのかと思ったが、どうも話がはっきりしない。とにかく一度交番まで来てくれないかという話であった。
「――というわけで、二人にもまた駅前まで来てもらったわけだけど」
「悪いことをしたわけじゃないけど、交番に入るのってなんだかどきどきするね」
「ちょっと緊張するね、愛ちゃん」
 それにしても交番に呼び出すなんて、一体どういうことだろうか。何か電話では言えないようなことがあったんだろうか。愛と可恋がどこか楽しげな一方で、勇気は緊張だけではなく、一抹の不安も覚えていた。
 ぐっと身を引き締めて、勇気が交番のガラス扉に手をかけたとき、例の初老の警察官がパイプ椅子に座っているのが目に入った。
「こんにちは」と言いながら、扉を開けると警察官も「こんにちは、わざわざ来てもらって悪いね」と挨拶を返してきた。それに続けて、ぼそりと「こんにちは」という声が聞こえた。
 そちらに目をやると、小学校低学年くらいの女の子がパイプ椅子から立ち上がってぺこりとお辞儀をしていた。どうやら先ほどは小さくて見落としていたらしい。
「こんにちはー、この子は?」と訊いたのは愛である。人見知りの可恋も自分より小さい女の子が挨拶をしているのに無視するわけにもいかず、同じようにぼそりと挨拶をした。
「この子は捨て猫の元飼い主、……と言っても間違いではないんだけど、微妙なところでね。お嬢ちゃん、自分で説明できるかな?」
 初老の警察官は温和な顔で、少女を促した。
「は、はいっ。あたし、時岡未来(ときおかみらい)って言います。その、今日の朝、そこのお巡りさんに声をかけられて――」
「あの猫が捨てられていたっていう場所を見に行ったら、この子が電柱をずっと見つめていたからね。
 きっと何か知っているんじゃないかと思って声をかけたんだよ」
「捨てたんじゃ、ありません」
 未来は首を強く振り、きっぱりと言い切った。怒っているわけじゃない。自分にそう言い聞かせているかのように言ったのだ。勇気は優しく語りかけた。
「話を詳しく聞かせてもらえるかな、未来ちゃん」
 未来はまるで自分の罪を懺悔するかのように語り始めた。未来はとても優しい女の子だった。だから、放っておけなかった。雨に打たれて震える捨て猫を。
 家に連れて帰り、お風呂に入れてあげた。両親が帰ってきてから、この猫を飼ってもいいかと訊ねた。両親は初めは渋っていたものの、ちゃんと面倒を見るならと許可した。そこまでは何も問題はなかったのだ。
 しかし、一ヵ月後のことだった。未来がいつものように猫を抱き上げると、ふと違和感を感じた。猫のお腹が少し膨らんでいるのに気付いたのだ。
 何かの病気かと思い、両親に相談し、動物病院へ連れて行ったところ、妊娠していることが発覚した。猫はずっと家の中で飼っていたため、おそらく未来が拾う前から妊娠していたのだろう。
 問題はそこからであった。猫は一般に、4匹前後の子供を産む。それだけの数の猫の世話ができるほど、未来の家は裕福ではなかったし、面倒を見切れるとも思えなかった。
 未来は産まれてくる子猫を飼ってくれる人を学校で探した。しかし、元々友達の数も多くない上、みんなにも事情があって飼い主探しは難航した。それでもなんとかふたりは見付けたが、実際に産まれてきた子猫の数はそれよりも多かった。
「『このまま飼い主が見付からなかったら、残りの子猫は可哀想だけど、保健所に連れて行くことになる』ってママが言いました。あたしはそれだけは絶対に駄目だと思いました。
 だから、飼い主が見付かったことにして、子猫をダンボールに入れて、目立ちそうな場所に放置したんです。運がよければ、誰か心優しい人が拾ってくれるかもしれないって思って。
 もちろん、放置って言っても、毎日覗きに行って世話をしていました。昨日の朝もご飯とミルクを持って様子を見に行ったら、もういなかったので、誰かが拾ってくれたんだと思いました。
 でも、もしかしたら何かの間違いかもしれないと思って、今日もまた覗きに行ったら――」
「そこでお巡りさんに声をかけられたんだね。そっか、話は大体分かったよ。そういうことなら安心して。あの子猫はこのお姉ちゃんが飼ってくれるからさ」
 勇気は言いながら、可恋の右肩をぽんと叩いた。可恋も思うところがあったのか、「任せておいて」と未来を慰めるかのような口調で言った。未来は嬉しそうにお礼を言った。