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悠里17歳

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 空港の出国ゲートに向けて歩くお兄ちゃんの後ろを歩いていると、急に立ち止まったお兄ちゃんに気付かず、背中に顔面突きをしてしまった。
「おいおい、どうした?」
 面白かったのか笑っているお兄ちゃん。ぶつかった拍子に眼鏡がずれたが雰囲気でわかる。
「ごめんなさい、急に立ち止まるから……」
ずれた眼鏡を戻しながら私はちょっと顔を膨らせる私をお兄ちゃんはじっと見ている。何か言いたそうだ。
「ええか、あそこで出国するねん……」指を差した先には多くの人が行列を作っている「ゲートをくぐったところに売店があるから、そこに集合な、わかった?」
「えっ、一緒に来てくれへんの?」
「何言うとう。俺と悠里じゃ通るゲートが違うねん。パスポート見せてみ?」
 お兄ちゃんに言われて私は首からつりさげたポーチから2つのパスポートを出した。どちらも濃紺色、一つは日本国のもの、もう一つは合衆国のものだ。
 国籍というのは「出生地主義」と「血統主義」の考えがあり、国家によってどちらかが採用される。出生地主義というのは人は生まれたところ(国)の国籍を持つ概念で、血統主義は親の国籍を受け継ぐ概念であり、合衆国は前者日本国は後者を採用している。
 私が生まれた時の父の国籍はアメリカである、私はそこで生まれたわけでも住んでたわけでもないのにもう一つピンとこない国のパスポートを持っている。私は二冊のパスポートを並べて見る度にどっち付かずのような気がしてなんとも複雑な気持ちになる。
「こっちのパスポートで出国、こっちのパスポートで入国。悠里は日本人のゲートをくぐるの、わかる?」
お兄ちゃんは私の手からそれを奪うと、慣れた動作で日本、そして合衆国の順に返してくれる。
「わかるけど、お兄ちゃんは?」
「俺、一つしか持ってないから、旅券」
 多重国籍者は22歳になるまでにどちらか一方の国籍を選択することとなっている。兄は先月22歳になったばかりだ。理由は聞いていないけど、とにかくお兄ちゃんはアメリカ国籍を選んだ。
 同じ兄妹なのに国籍が違う、それも私をさらに微妙で複雑な気持ちにさせた。
「国籍がどうであれ俺はあんたの兄、ほんであんたは妹だ。ま、そういうことで」
そう言いながらお兄ちゃんは私の背中を優しく叩いた。私の顔に書いていることが見えているみたい。
「さ、行ってこい。悠里(日本人)の方が行列長いぞ」
 長い行列に私を残して、お兄ちゃんは颯爽と外国人のゲートの方へ並んでいった。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔