小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

悠里17歳

INDEX|25ページ/108ページ|

次のページ前のページ
 


 ギターを振り回し、歌っているのが私の5つ年上の兄、倉泉陽人(はると)だ。正真正銘実の兄であるが、きょうだいの中でただ一人のアメリカ生まれだ。なので現地名としてグレッグというミドルネームがあり、このバンドを知る人は兄のことをGreg Kuraizumi として認識している。ドラムを叩いているのが同じ高校の同級生だったというTerry Tsutsumiこと堤 輝(つつみ てる)さん、最後にお兄ちゃんの横で跳びはねながら叩くようにベースを弾いているのがジェフリー・ミラー(Geoffrey Miller)という、日本在住のアメリカ人だ。親が軍人で小さいときから沖縄や横田に住んでいると、彼らNAUGHTが出したアルバム『disillusion』のライナーに小さく書かれている。
 結成は5年前の神戸、ギミックの解散後MMの仲介で親友である輝さんが紹介されたことでの始まった。お兄ちゃんがドラムからギターに変わると聞いて是非参加したかったそうだ。
 それからしばらくベースは固定されてなくて、お兄ちゃんがベースでMMがギターだったりとライブ中心の活動をしていたが、二人とも東京の大学に進学し拠点を移し、オーディションで同じく日本の大学に通うジェフリーが参入し現在のメンバーに落ち着いた。

 英語の「NAUGHT」というのは「無」とか「ゼロ」などと言った意味で、それが転じて(naughty)「やんちゃくれ」とか「無垢な」などと訳される。口語ではあまり聞かない古い英語だ。
 名前の通り、テレビなどで見るお兄ちゃんたちは破天荒なところがあるけど、悪気はなくある意味では純粋なところがあると思う。本人の談では「なーんも考えていない」ところから出た単語がたまたまNAUGHTだった、それだけのことらしい――。こだわりが無く、やる気のないことを言っている時が一番調子のいい時なのを知っているので、それもお兄ちゃんらしいなと思っている。

 夜も遅いのでお母さんは隣の部屋で寝ている。私はテレビの音量を絞りつつ、宿題をする手を止めて画面に写る音楽に見入っていると、手が自然にエアギターの体勢になり、右手が無意識にコード進行の指を作っていた。

    nothing changes whatever you do
   let me alone
   (何したって変わんねえよ、
   ほっといてくれ)

 NAUGHTの三人はステージの上を暴れ回り、輝さんはタムを蹴っ飛ばすわ、ジェフリーはドラムに突っ込むわ、お兄ちゃんは最後にギターを叩き壊していた。
 家が荒れていた頃兄は中学生だった。家庭の事情に加え中学受験の失敗など多感で難しい時期にあった兄は私と口すら聞かない時期が長くあったが、ホントはそう言った激しい怒りとは無縁の兄。両親の離婚以降家では大きな声を出すことどころか、感情的になったのを見たことさえないような、妹にはやさしいお兄ちゃんだ。
 彼もまた当時はどうにもならない家庭の現状や、四分の三の日本人と四分の一のアメリカ人の狭間でもがいていたように見える。もしそれが正解なら、きょうだいなので私にも同じプロセスがあって、そのやり場のない頃の経験が今の音楽に反映されて、そして何故そんなに暴れまわるのかは何となく理解ができる、私はしないけど。
 私はこないだ千賀先生に言われた事をふと思い出して、東京にいる兄に電話をかけた。確かお兄ちゃんは先週アメリカから帰って来たばかりで家にいるはずだ。私は居間にある電話を部屋まで引っ張ってきて覚えている番号を押した。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔