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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第21話
「雄作の病名は・・・」


 深夜0時を回った蕎麦屋「六連星(むつらぼし)」では、
家出娘の響と、店主の俊彦、もと大学の准教授で今は原発労働者の戸田勇作の
三人による酒盛りが、終わる気配を見せません。
テーブル上にはビール瓶があふれ、ほとんど隙間が見えない。

 
 「宴も佳境に入りました。
 それではいよいよ、本日の本題でもある、私の原爆ぶらぶら病について、
 語りたいと思います」

 「原爆ぶらぶら病?原発では無く、原爆に起因する病気と言う意味ですか?、
 不思議な病名ですねぇ」

 「ぶらぶら病は、原爆が投下された広島で命名された病名です。
 主に『極度の疲労感や倦怠感』などの症状があらわれます。
 原爆症の後障害のひとつです。解りやすく言えば・・・・
 体力や抵抗力が弱くなり、疲れやすい、身体がだるいなどの症状が続きます。
 人並みに働けないためまともな職業につけず、病気にもかかりやすく、
 かかると重症化する率が高くなります。


  広島市への原子爆弾投下後、市民のあいだで名付けられました。
 医師の肥田舜太郎氏が、被爆患者の臨床経験をもとに研究をすすめました。
 市民たちによって呼ばれていたこの"ぶらぶら病"は、認知されるまでに、
 大変に長い時間がかかっています。
 症状が曖昧なため、医師に相談をして、いろいろな検査を受けても、
 どこにも異常がないと診断されてしまうためです。
 仲間や家族からは、怠け者というレッテルを貼られます。
 理解を得ることが出来ず、たいへんにつらい体験をした者が多いようです。


  ぶらぶら病の証言として、広島の原爆投下時に宇品港の近くにいた、
 岸本久三と言う人の実話が残っています。
 この人は、沖縄県の出身です。
 広島で原爆を体験してから終戦後、生まれ故郷の沖縄へ戻りました。
 被ばくはしたものの、爆心地からは遠かったため、
 被ばくの程度は低濃度です。
 低濃度と言うのは、即死や致死には至りませんが将来的には、
 なんらかの症状や、病気の『危険性』が心配されるレベルです。
 生き残った被爆者の大半が、この低濃度レベルの被爆者たちです。
 体内にある低濃度の放射線が、やがて人体に深刻な影響を及ぼしていきます。
 沖縄に戻った岸本久三もまた、例外なくその影響を受け始めます。
 数年もたたないうち、岸本氏を奇妙な病気が襲います。


 『私もこの原因不明の病気にやられてから、仕事も辞めました。
 毎日家でごろごろしているんですが、近所の人たちからは、
 “なまけ者”と言われているような気がしています。
 十数年も前からの倦怠感、四~五年前からの節々の痛み、
 吐き気を呈しても、診断した医者は、原因が不明だというんです。
 名護にある保健所ではまったく手に負えず、那覇では胃が悪いといわれ、
 とうとう開腹手術までやりましたが、結局、胃に異常はありませんでした。
 次は神経科へ回されまして……ノイローゼだろうということなんでしょうね。
 この痛みは、いつまでたっても誰にもわかってもらえません。』


 『見た目は丈夫そうに見えるから、かえっていけない。
 手か足に傷でもあるなら、世間の人に理解してもらえるだろうに…』
 と、自身の回想の中で、ぶらぶら病のことをまとめています。
 『原爆ぶらぶら病』と呼ばれるようになったこの病気は、別の研究によって、
 全身の倦怠感や疲労感を中心とした症候群である、「慢性放射能症」や
 「慢性原子爆弾症」と呼ばれるようになりました。


  広島と長崎で被爆をしたものの、幸にして死亡を免れた人々のうちに、
 その後の発症として、白内障や白血病、再生不能性貧血(再生不良性貧血)
 などが発生していることは、世間によく知られています。
 しかし被ばくによる病気は、これだけではありません。
 疲れやすくなり、根気がなくなり、感冒や下痢などにかかりやすく、
 生気の乏しい状態に陥るなどの症状が出てきます。
 放射能による健康被害として、内臓や骨髄、肝腎、内分泌臓器、
 生殖腺などへの障害も深刻です。
 これらは、内部被曝や低線量被曝が原因という見方もありますが、
 残念ながらこれらは、そうした因果関係が立証されていません。
 まだまだ、研究中のようです。