小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Close To You―空からの贈り物―

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「明海、今日、ウチに来れる?」
甘い響きの声で、若宮竹流(わかみや・たける)は、
高遠明海(たかとう・あきみ)のカオを覗き込み微笑みを浮かべながら言った。
二人は、学校の帰り道、凍てつく道を肩を並べて歩いていた。
同級生の・・・公称“親友”の二人・・・。
白いオーラを放つような優美な顔立ち、物越し。
誰からも愛されている竹流。
今日のイヴの予定はもうずっと約束されていた。
なのに確かめる様に、竹流は明海にそっと小声でうながす。
「・・・うん。」
その優しさが、少し怖い。優しすぎるから。
うつむいた明海の手をそっと包み込むように握り、自分のベージュのカシミアのコートの
ポケットへ竹流は入れた。
薄茶の前髪が揺れ、薄茶の瞳が笑う。
冷え切った手から温かさがしみ込んで来て、心が溶けていくようだ・
「行くよ、竹流。」
紺のピーコートを着た漆黒の髪に黒曜石の瞳の明海は、
下がり気味の眼を細めまぶしそうに、ぼそっと告げた。
明海は少し人を寄せ付けない雰囲気をもっていた。
(それが人からミステリアスな魅力にうつっている事を本人は知らない。)
竹流だけを、明海はいつも見ているから・・・・・。

ささやかな、小さなプレゼントを持って、明海は由緒ある洋館のインターホンを押していた。
竹流の家はいわゆる上流に属する部類の人間だ。
祖父は一大コンツェルンの会長、父、竹雄は関連企業を束ねる会社の、今は重役、
いずれは社長の座に就くためにである。
母・静流は華族の出身。
ところが竹流の家庭はそんな肩書きなど、まったく気にならない、
気さくで明るいとても居心地のいい―竹流が何故誰からも愛されるのかが
理解るようなそんな“家”だった。

「いらっしゃい、明海くん。今日はおばさん腕をふるったからね、思いっきり食べてってね。」
長い長い廊下を歩きながら軽く背を押され、明海は静流に、
「はい」
と素直に答えていた。
明海はかなり無愛想な方である。
だが、静流に対して自然に笑っていることを、本人も知らない。
ひょこっと、竹流が姿をあらわした。
「明海!待ってたよ!」
満面の笑顔で駆けてくる竹流。
手を引いてダイニング・ルームに招き入れる。
本物のモミの木に金色の電飾が光り、アンティークの大きな長方形テーブルに、
白いリネンのテーブルクロス、その上に静流の手作りの赤と緑のランチョンマット、
銀の燭台には金色のキャンドルの輝き。
クリスマスらしく品よく飾りつけられている。
テーブルにはケーキやら七面鳥のつめものやらクリスマスプディングやらの、
静流の“よりをかけた”手料理が並べられていた。
「明海くん、いらっしゃい」
笑みを浮かべた竹流の父。
皆がテーブルについてなごややかにクリスマス・イヴの夕餉がはじまる。

セピアトーンにまとめられ、白いオーガンディのカーテンが、
清潔感を漂わす住み主に似た竹流の部屋に食事の後、二人はいた。
「ね、見てて、明海。」「?」
総クリスタルの見事な細工のほどこされた、小さなテーブル。
竹流は水を浮かべた器の上に淡いピンクのキャンドルを、
そっと置いて火を灯した。
部屋の明かりを消して二人で肘をついて見つめる。
炎が揺らめき水に映る影と光が、キラめく。

「きれいだね・・・」
思わず明海は呟いた。竹流を見ると、竹流は明海を見つめていた。
「本当、キレイだ・・・」
それは誰に対して言われた言葉だろうか・・・。
唇がやさしく重ねられた。

二人の心の海に浮かぶ、誰も知らない無人の島・・・・・・・
隠れてる、秘密の、ふたりだけの島・・・
内に虹色を宿した、透明な光がそこで輝く
ダイヤモンドは傷つかない・・・・・・・・・

「見てっ!あきみっ!」
竹流の声に、目をこすりながら、大きなベッドの上から、起き上がり窓の方を見た。
ベランダに出る高い窓が開かれ、全裸の竹流が立っている。
プラチナの光の中に。
白いシーツの波をたぐりよせ、ぼんやりしながら窓からベランダに出て、
シーツを竹流の頭からかぶせ、よりそった。
「わ・・あっ・・・」
白い白い、天からの贈り物が、羽のようにつきることなく降りてくる。
あくることなく、二人は空を見上げ続けた。

「メリー・クリスマス!」
同時に二人は合唱のように、お互いをみつめながら、ささやいた。


                                                       

―Fin―