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連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話
「原発労働者との初めての出会い」

 「お待たせ、出来たよ」

 俊彦が温かい蕎麦を響の前へ運んできた。
ドンブリから立ち上る湯気の向こう側から、響の瞳がまっすぐ
俊彦を見つめている。
岡本と二人の若い者はすでに帰り、すっかり静かをとり戻した六連星の店内で、
温かい蕎麦をすする響と、煙草をくゆらせている俊彦が
なぜか、向かい合わせに座っている。


 「トシさんは・・・・
 なんで前の奥さんとは、別れちゃったんですか。
 お母さんから聞いた話では、とても仲の良い幼馴染だったと、伺いましたが」

 「別れたのは、すべて俺の不始末だ。
 女房には、なにひとつ、なんの問題もなかった。
 若かったから俺をそれなりに仕事をしたが、その分、派手な遊びもした。
 俺が自分勝手で、我がまま過ぎたせいだろう。
 他に別れた理由はない。
 なんだ藪から棒に。突然、そんな昔のことを質問するんだ?・・・・」

 「いいえ・・・・ただトシさんみたいに誠実な人が、何故、
 離婚してしまったのかなと、ふと、感じただけです」


 「誠実ねぇ、俺が・・・。
 それなりに歳をとったから、性格が丸くなっただけの話だろう。
 若いころには、やんちゃばかりをしでかして、ずいぶん女房を泣かせた。
 不良の岡本にすら、説教をされたくらいだ。
 お前は堅気のくせに、いいかげんにしろって、ね」


 「お子さんは、産まれたの?。」


 「残念ながら子どもは出来なかった。
 いや。幸いにと言うべきなのかな、別れてしまった今となっては・・・・
 兄弟は、妹が一人いる。
 たった一人の妹も、ずいぶんと遠い処に嫁いでしまった。
 両親は早くに亡くなったから、早い話が、今では天涯孤独みたいなもんだ。
 そのぶん悪友どもが多いから、退屈はしていないがね」

 「悪友?。岡本さん、みたいな人たちのことですか?」


 「岡本、俺の同級生の一人だ。
 生き方はまったく別の世界だ。
 だがなぜか気が合って長いつきあいになっている。
 あいつも・・・・君のお母さんに、惚れていた時代があったはずだ。
 おっとっと、今のは失言だ。思わず口が滑っちまった。
 忘れてくれ。本人の名誉のためにも、今の発言は
 聞かなかったことにしてくれ」

 「トシさんは・・・・、私のお母さんのことは好きなんですか」

 「え。・・・・」

 「あ、ごめんなさい。調子にのりすぎました。
 ついうっかり私まで、口が滑ってしまいました。ごめんなさい。
 今のは取り消します。忘れてくださいな」


 温かいうちに、いただきますと響が言いかけた時、
『ごめんよ』と表から細い声が聞こえてきた。
蕎麦屋・六連星の引き戸が、ゆっくりと音を立てずに開いた。

 「遅い時間だとは思いますが・・・・久々に来たもので顔を出してみました。
 トシさんは・・・・相変らず、お元気ですか?」

 無精ひげだらけの、凄まじい風貌の男が突然顔を出した。
箸をもったままの響が、思わず椅子から、あわてて腰を浮かせる。
俊彦が「大丈夫だ、こいつは無害だから」と笑いながら、響の肩を抑え込む。


 「熊みたいで、見た目は確かに良くないがこいつも、俺の友人の一人だ。
 名前は、戸田勇作と言う。かつて俺のアパートで一年ほど
 一緒に暮らした奴だ。
 怪しい者では無いが、初めて会うやつはたいていお前さんと同じ
 アクションを取る。
 勇作にも紹介をしておこう。
 この子は俺の同級生の娘さんで、響だ。交響曲のひびきと書く。
 訳あって、友人から預かっている女の子だ。
 今のところ、俺のアパートで馴れ合い的な同居をしている」


 「嫁さんにしては若すぎるし、病人にしては元気すぎます。
 なるほど、そう言う訳ですか。
 戸田勇作と言います。
 病気で死にかけていたところを、岡本さんと、トシさんに助けられました。
 お嬢さんには耳慣れない病気でしょうが、
 『原発ぶらぶら病』という病気です。
 最近になってから、やっと国から認定された病気です」


 「原発ぶらぶら病?  なんですか、それって・・・」

 箸を手にしたまま中腰の響が、いぶかしい目で雄作を見つめている。