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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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25―6 【蟹】

 【蟹】の字体、見るからにカニだ。
 だが分解してみると、「解」に「虫」に分かれる。
 「解」は(ほどく)で、脱皮。
 「虫」のように脱皮する生き物、それが【蟹】だとか。なにか狐につままれたような話しだが、まじめな解釈だそうな。

 さてさて日本の民話に「猿蟹合戦」がある。誰しも幼い頃、一度は耳にしたことがあるだろう。
 だが成人となり、忘れてしまっているところもある。ここで少し復習をしてみよう。

 おにぎりを持って蟹が歩いている。そこへ猿が柿の種と交換しようと言い寄ってきた。蟹は嫌だったが、育てば柿がたくさん採れると説得され、おにぎりと柿の種を交換してしまう。

 「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ」
 蟹は柿の種を植え、毎日水をやった。そのお陰か、柿はスクスクと育ち、実をたくさん着けた。

 しかし蟹は柿が採れない。そこへ猿がやって来た。そして柿を採ってやろうと言う。
 早速木に登った猿、自分は食べるだけ食べて、蟹にやらない。挙げ句の果てに、木の下にいた蟹に青くて硬い柿を投げ付けた。
 これが蟹に当たり、蟹はその後子供を生んで死んでしまう。

 その子供たちが育った。
 親の敵を討とうと、栗と臼と蜂と牛糞を仲間に誘う。そして猿を呼びつける。
 栗は囲炉裏(いろり)、蜂は水桶、牛糞は土間、臼は屋根、このようにそれぞれの場所に隠れた。

 やって来た猿、まず囲炉裏で身体を暖める。その時栗は弾け、猿に火傷を負わせる。猿は慌てて水で冷やそうとすると、水桶に隠れていた蜂が刺す。

 猿はこれにもびっくりし、家から飛び出そうとする。そこで土間にあった牛糞に滑ってしまう。
 その上に、屋根から臼がドスンと落ちくる。これで猿は圧死、潰れて死んでしまう。
 蟹の子供たちはこうして見事に親の敵を討ったのだった。

 これでめでたしめでたしとなるところだが、この「猿蟹合戦」、これだけでは終わってはいなかったのだ。
 大正十二年二月、文豪・芥川龍之介は「その後」を書いた。

『蟹の握り飯を奪った猿はとうとう蟹に仇を取られた。蟹は臼、蜂、卵と共に、怨敵の猿を殺したのである。
 ――その話はいまさらしないでも好い。ただ猿を仕止めた後、蟹を始め同志のものはどう云う運命に逢着したか、それを話すことは必要である。
 なぜと云えばお伽噺は全然このことは話していない。』

 こんな書き出しの「猿蟹合戦」の「その後」、これが実に面白い。
 結果、主犯の蟹は死刑、共犯の蜂たちは無期懲役の刑が宣告されているのだ。

 「解」と「虫」からなる【蟹】、まるで物語が横歩きしてるようだ。