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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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22―6 【諜】

 【諜】、右の「某」は祝詞の入った器を木の上に置き、神に捧げることとか。
 そして神意を問いはかる意味で、神聖な字だ。しかし、謀反/陰謀とか良い意味には使われていない。
 その中でも諜報部員、スパイとなり、洋画の007の世界だ。

 だが日本にもいた、女スパイが。それは幕末暗躍した――村山たか女。
 しかし、たか女がいかにも悪女かと思いきや、その生涯は壮絶で、一途に愛に生きた女性なのだ。
 簡単にその生涯を年表で追ってみよう。

 1809年 近江国犬上郡多賀町に生まれる。(巳年)
 1815年 六つ年下の長野主膳と井伊直弼が生まれる。
 たか女・17歳は、直弼の兄・直亮の侍女となる。
 そして21歳の時に、京都祇園の花柳界にデビュー。その後金閣寺の僧に囲われるが、寺侍・多田一郎と結婚し、多田帯刀(たくわき)を産む。そして離縁。

 1834四年 たか女・25才は彦根藩に戻る。
 1839年 埋木舎で悶々と暮らす直弼・24歳とたか女・30歳は相通じるようになる。

 1842年 伊勢国から流れてきた長野主膳は国学塾を開く。そしてたか女と長野は出会う。
 さらに11月20日、たか女は直弼に長野を紹介し、ここに三人がまるで導かれた三つ星のように出会う。

 1844年5月 たか女・35歳は長野・29才に誘われ、琵琶湖湖畔の宿にいた。熱く抱かれる。
 1846年2月 直弼・31歳は公務駐在で江戸へと旅立つ。長野主膳と村山たか女は大垣までついて行き、見送る。
 1850年 兄の急死により、直弼は藩主となり彦根に戻る。

 1858年 井伊直弼・43歳は大老に任じられる。
 長野を側近に抜擢し、将軍の後継問題と日米修好通商条約問題で尊壌派弾圧の行使を開始。
 たか女は京都で女スパイとして活動し、そして世は安政の大獄へと向かう。

 1860年3月3日 水戸藩による桜田門外の変で、直弼は暗殺される。
 1861年2月7日 逃げていた長野主膳・46歳は処刑される。

 1862年 たか女・53歳は隠れ屋で息子と潜んでいたが、発見され、息子が一刀両断で殺される。
 そしてたか女は三条河原で「生き晒しの刑」。三日三晩晒される。

『この女、長野主膳妾にして、主膳奸計を助けたる者。女子の身なれば死罪一等を減ず』
 村山たか女は女スパイらしく毅然と「生き晒しの刑」に耐え、三日目に助けられる。

 その後、金福寺(こんぷくじ)に入り、妙寿(みょうじゅ)と名乗る。
 ここで14年の歳月を過ごし、そして1876年、村山たか女・67歳は女の一生を終えた。近くの圓光寺で眠る。

 約180年後の今、彦根の城下町を一望できる天寧寺(てんねいじ)、その高台に……
  長野主膳義言(よしとき)の墓
  桜田門外の変の血染めの土を埋めた井伊直弼の供養塔
  圓光寺の村山たか女の墓から移されて来た土の上に建つ碑
 彦根城を背に、三人は仲良く並ぶ。

 【諜】とは、こんなドラムを生んでしまう漢字なのだろう、多分。