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とりかえごっこ

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とりかえごっこ


太陽なんて、とっくに沈みきっていた。
あたりは暗く、陰気な色の外灯が照らすあたりだけがぼんやり白く明るい。
普通の子供はとっくに家に帰って、晩御飯を食べている頃だろう。けれど、蒼子は公園で一人、さびしくブランコを揺らしていた。
蒼子は、二つ上の兄の事が、大嫌いだった。
兄は意地悪だ。かけっこでも、ケンカでも、手加減してくれたことなんてない。蒼子が泣いていたって、怒った顔で「泣くな」というだけで、なぐさめてくれたことなんてない。
今日だってそうだ。ケンカをした。泣きそうになって、「泣くな」と言われた。それが悔しくて、蒼子は家を飛び出した。
そしてこうやって、家に帰るきっかけを探している。
足を揺らすと、キイキイとブランコが錆びついた音を立てた。
――こんな時。ふと蒼子は考える。
こんな時、もしも、もしもあんな兄じゃなくて優しい姉がいたら。きっと蒼子のことを迎えに来てくれるはずだ。やさしい声で、「どこに行ってたの」「心配したのよ」「ごめんね、お姉ちゃんが悪かったわ」……
なのに。
「どうして、あんなお兄ちゃんが、私のお兄ちゃんなのよ……」
そう、思わず声に出して呟いた時だった。
「お兄様が、お嫌いですか?」
気が付くと、ブランコの前に男の人が立っていた。まるで手品師のような、燕尾服を着た背の高い人。
「あなたは……?」
「ああ失礼。私こういうものでして」
小学生の蒼子に、わざとらしいほど丁寧に男は小さなカードを差し出した。
『兄弟シャッフルサービス会社 《ブラスターズ》 
東京営業所 鳥家栄太郎』
「兄弟、シャッフル……?」
 耳慣れない言葉に首を傾げると、男――鳥家は満面の笑みで頷いた。
「私共は、自分の姉や兄に不満をもつ方を登録し、新たに理想の姉、兄をお届けする会社でございます。
たとえばあなたは先程、あんな兄、とおっしゃいましたが、……代わりに理想の兄、姉がいたらと、思ったことはございませんか?」
理想の――姉。それはまさにさっき、蒼子が思ったことだ。
「思う。優しいお姉ちゃんが欲しいわ。絶対怒らないし、泣いていたらなぐさめてくれるの。いくらでもお願いを聞いてくれて、いつも一緒に遊んでくれるお姉ちゃん。――できる?」
「お望みですか」
「欲しいわ」
「お引き受けいたしましょう。村崎蒼子様、紅太様を当社の会員名簿に登録いたします」
 名前を言った覚えもないのに、鳥家は蒼子と兄の名前を言う。更にいつの間にか紙とペンを取り出して、それを蒼子に差し出す。
「ただしこのサービスを受けるには、まず絶対にお守りいただかなくてはならないことが2点ございます。
1.新しい姉に対し、決して「本当の姉じゃない」などとは言わないこと。2.〈元〉お兄様の事を話題にしないこと。よろしいでしょうか?」
「簡単だわ」
蒼子は即座に答えた。たったそれだけで理想の姉が手に入るなら。本当に簡単なことだ。  
「では、契約書にサインを」
重たいペンを受け取って、力強くサインする。
蒼子のサインが入った契約書を受け取り、鳥家は手品師のような大げさな礼をした。
「かしこまりました。それでは明日より、村崎紅太様に代えて、ご要望通りの姉をお届けいたします。詳しくはその契約書に書かれていますので、ご一読下さいませ」
差し出された薄い紙を手に取る。まじまじと見つめて、顔をあげたときには既に鳥家は消えていた。
まるで夢を見ていたようだが、手の中には契約書がしっかりと残っている。
家への道を歩きながら、お姉ちゃん、お姉ちゃん、と蒼子は呟いた。理想の、姉。
家に帰ってからも、相変わらず兄はケンカのことを謝りもしないで嫌な兄だったけれど、これも今日までだと思えば全然気にならなかった。
ご飯を食べてお風呂に入って、夜になっても期待と緊張でなかなか眠れなかった。隣の兄の部屋は静かなまま、何かが起こる気配はない。本当に姉が来るのか、疑いながら、蒼子はいつの間にか眠っていた。

作品名:とりかえごっこ 作家名:雪崩