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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19

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第69章 炎と神速の戦い


 レムリアを発つ際、ロビン達はハイディアの地を目指すことになったが、シンは別の場所での修行を申し立てた。
 彼一人での修行ではない、ジャスミンと共に行う修行である。
 これはシンが、ジャスミンの内に秘められた力の大きさを読み、その力を十分に高めることが目的であった。
 シン自らも手に入れた力通眼により、ジャスミンから読み取った力は、『プロミネンス』の最強にして最終の力である。
 この力を最大限かつ、自由自在に操れるようにするため、そして最強の炎の使い手相手にすることで、シンは自らも更なる力を得ることを目的にしていた。
 この修行には、とてつもない力のぶつかり合いが予想された。故に、シンはロビン達とは同行せず、どれほど辺りが崩壊する事態に陥っても平気な場所を選んだ。
 それはすでに全てが崩壊した島、エゾ島。
 シンとジャスミンは、イワンの手伝いにより、彼らは『テレポート』でエゾ島に程近いシンの故郷、ジパン島へ来ていた。
「ありがとな、イワン。時間がないのに、オレのわがままに付き合ってくれて」
 シンはイワンへと礼を言う。
「いえ、これくらいはどうという事はありませんよ。それで、ボクの役目はこれで終わりですか?」
「ああ、ここまで来れれば、十分だ。後は目的地まで飛んでいける」
 それよりも、とシンは言う。
「イワン、お前は早く戻れ。少しでも修行の時間を無駄にするな。後は、姉貴の所でみっちりしごかれてこい」
 シンはニヤッ、と笑ってみせた。
 イワンは対称的に、顔に暗い陰を落とした。シンの姉貴、という言葉を聞き、死亡したと思われるイワンの姉、ハモを思い出したのだ。
 シンはしまった、といったように、一瞬ばつの悪い顔をしたが、すぐに真顔になり、イワンに呼びかけた。
「イワン、今のお前に宿る力を完全なものにすれば、お前の姉貴の仇は討てる、必ずな。気持ちは分かるが、今は悲しんでいる時じゃない」
「イワン……」
 シンの隣でジャスミンは、心配そうな声を上げた。
 イワンは、少しの間俯くと、やがて顔を上げ、シンを真っ直ぐに見据えた。
「そう、ですよね。今はまだ悲しむ時じゃないですね。ボクにはやるべき事がある。デュラハンを倒し、ギアナの民、それから姉さんの無念を晴らす。皆の死を悼むのはそれからです!」
 イワンの顔から暗い陰は消え去った。そこにあるのは、デュラハンを倒すという思いのこもった、使命感に満ちた表情であった。
「その意気だ、イワン。さあ、早くみんなの所へ行くんだ。時間がもったいないぜ」
 シンは再び笑みをみせた。今度はイワンも笑った。
「はい、数日後、お互い無事に再会しましょう!」
「ああ、絶対な!」
「お互い強くなって、また会いましょう、イワン」
 シン達はしばらくの別れを済ませると、イワンは『テレポート』でハイディアの地へと戻っていった。
「さて、ジャスミン。オレ達も時間がねえ、さっさと行こう」
「そうね、そのエゾ島? はどこにあるの?」
「ここから北にある離島だ。海を挟んでいるから、空から行くぞ。なに、一時間もすればたどり着ける。早く行こう」
「分かったわ、行きましょう」
 シンは空翔ることのできるエナジーを発動し、ジャスミンは『プロミネンス』のエナジーを翼に変え、飛翔した。
 そして二人は過酷なる地、エゾ島を目指して行った。
    ※※※
 シンは空翔るエナジー、ジャスミンは炎の翼を広げ、空中を移動していた。
 瘴気により発生する闇の霧の為、地上ははっきりと見えない。
 海の上を飛行していて、ジャスミンの眼に映ったのは、瘴気で汚染され、紫色に変色を遂げた海面であった。
 瘴気により死したイルカの群と思われる死骸が、海面に浮かんでいるのがわずかに窺えた。他にも鈍い銀色の光沢を放つ、魚達と思われる死骸も浮いている。
「ひどい風景ね……、可哀想に……」
 ジャスミンは思わず口にした。
「オレ達人間になら耐えられる瘴気も、動物にはかなりの毒だったようだな。この様子じゃ、浅瀬にいる魚は死滅してるだろうな。もちろん、浅いところにしかいられないイルカは、尚更な……」
 先行して進むシンは、死の領域と化した海を一瞥する。
「ジャスミン、大丈夫か?」
 シンは、気分が悪くないか訊ねた。この光景だけでも、見ていて胸が悪くなる事だった。
 シンには、このような酷たらしい景色に耐性があるが、そうした耐性のないジャスミンは気分を害していても仕方がなかった。
「……正直に言うと、少し気持ち悪いわ……。何だろう、息苦しい……」
 ジャスミンはやはり、体調を崩していた。
「あまり深く息をするな。ここいらは、人が死ぬほどの毒性を持った瘴気は漂ってないが、体調に異変はきたす。呼吸を小さく、浅くするんだ」
「うん、そうする……」
 ジャスミンは呼吸を浅くするために、鼻と口元を手で押さえた。僅かばかりではあるが、瘴気の吸引を抑制し、胸がむかむかとする感覚は少し楽になる。
 シンはジャスミンの様子を見て、少々の不安感を覚えた。
「少しでも見慣れておけ。エゾ島はこんなものじゃないぞ」
 エゾ島は全てが死んだ島である。
 木々は全て枯れ果て、葉をつけたものは存在しない。地は岩石の山に支配され、デュラハンが瘴気を発するより前に、島にはほとんど日が射さしていない。これは、エゾ島に存在する大火山が、約百年前に噴火したためであった。今でもまだ火山灰で空気が悪い。瘴気が発生している事も合わせれば、魔界と化したギアナ村と大差ない場所であろう。
 エゾ島に存在する生命体といえば、魔物の他に何もない。それも、彼らの餌食となるものが他にいないため、島の魔物は互いに喰い合い、敗れた方は勝した方に、喰われるのである。
 そんな弱肉強食の島に存在している魔物は、イズモ村付近に出没するものより、遥かに強く、また残酷な存在であった。
「……地獄の例えを言ってみろ、って言われたら、オレは迷いなくエゾ島の事を話す……。延々と降り続く火山灰や、共食いに負けた魔物どもの死臭。ありゃとても吸えない空気だ。おまけに年がら年中暑い、火山のせいでな。やっぱ、見てて一番キツいのは、散らかった魔物の臓も……」
 シンは話を止めた。ふとジャスミンの顔を見た瞬間、顔に手を当て、隙間から覗く顔は、真っ青になっていたからである。
「悪い、別にビビらすつもりはなかったんだが、オレと違ってお前は死骸への耐性がないよな。うっかり話しすぎた、すまん」
 シンは詫びた。
「確かに怖くて、気持ち悪いわ……、でも……!」
 ジャスミンは手を顔から放した。
「私達がデュラハンを倒せなかったら、ウェイアードそのものがそんな所になっちゃうんでしょ? そんなの絶対に嫌よ! だから、これからどんな酷いところに連れて行かれるか分からないけど、私は負けない!」
 ジャスミンの強い意志を表すかのように、炎の翼は燃え盛った。まだ少し青ざめているが、表情にも覚悟が窺える。
 随分と強くなったものだ、とシンは思った。初めてジャスミンと出会った時には、兄のガルシアの後ろに隠れているような怖がりだった。

 しかし、今ではとてつもない炎の力を持ち、その炎から、ジャスミン自身も燃え盛る心を与えられたかのようである。