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アナザーワールドへようこそっ!  第三章 【行間2】

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  第三章  「春期(スプリングシーズン)へようこそっ!」



  【行間2】



「こ、ここは…………氷? 夜? い、一体……?」

 気がつくと、俺は、『氷と夜の世界』にいた。

 地表はどこまでも続き、そして、360度、すべて一面、『氷』に覆われていた。

 空は、『夜』が支配し、そこには無数の瞬く星々が広がっている。


「な、何だ、ここは……? 俺は、どうして、こんなところに?」


 なぜ、俺はここにいるのだろう?

 どうして、俺はここに来たのだろう?

 ここは、『初めて訪れた場所』……のはず。

 なのに、何だろう…………この『既視感(デジャヴ)』は。

「やあ、ニノミヤハヤト……」
「!? だ、誰だっ……!?」

 声のほうに振り向くと、そこには、一人……? 一匹……? のタキシード服を着た『ウサギ人間』が立っていた。

「ウ、ウサギ……人間?」
「はじめまして、ニノミヤハヤト。ボクは…………そうだな~、うん! ボクの名は『アリス』、よろしくっ!」
「ウサギがしゃべったっ!」

 いや、むしろ…………『ウサギ人間』がしゃべった!

「ひどいな~……ボクはウサギの格好しているけど、ちゃんとしゃべれるんだぞ! 失礼なっ!」
「す、すみません……」

『ウサギがしゃべる』…………なるほど、夢か。

「そう。ここは、ニノミヤハヤト…………君の『夢の中』だ」
「!?…………お、俺の心を……」
「まあね。どうだい? ボクってすごいだろ? エッヘン!」
「は、はあ……」

 な、何なんだ、こいつは?

……と、俺が今、心で思っていることは、こいつには、

「うん。筒抜けだよ」

 やっぱり。

 ということは…………、

「もしかして……シーナの世界の人?」

 こんなことできるのなんて、それしか考えられない。

「うーん……まあ、『近からず遠からず』と言ったところかな。まあ、そんな認識でいいよ、ニノミヤハヤト。それよりも、今日は大事な話があったから、君の夢の中に来たんだ」
「大事な話……?」
「うん。まず、ボクが君と会話できるのは、この『君の夢の中』だけだということ。つまり、この『君の夢の中』だけが、唯一、ボクと君が『つながる世界』なんだ」
「つ、『つながる世界』……?」
「うん。ここだけは唯一、『あいつ』も干渉できない世界なんだよ……」
「『あいつ』……? 誰のこと?」
「神様」
「か、神様……?!」
「正確に言うと、『入れ替わった神様』のこと」
「い、入れ替わった……っ?!」

 えっ?

 なんだ? 何を言ってるんだ、こいつ。

 神が…………入れ替わった……だと?

「うん。今の『神様』は、君とシーナが『あの世とこの世の狭間の世界』にいるときの神様とは違うんだ。まあ、ニノミヤハヤト……君は神様には会ったことがないだろうが、シーナが今、認識している『神様』は、もう、そこには……いない」
「い、いないって…………どういうことだよ?」
「その『入れ替わった神』が…………消滅させた」
「えっ?! しょ、消滅っ?!」

 な、なんだ?

 消滅……って、それって……『殺された』ようなものじゃ……。

「……まあ、そういうニュアンスでだいたい合ってる。とにかく…………ボクから君にお願いしたいことは、このことを一刻も早くシーナに伝えてほしいということなんだ」
「シ、シーナに……?! じゃ、じゃあ、このことをシーナはまだ……知らないってこと?」
「うん」
「そ、それなら、直接シーナの『夢の中』に行って伝えればいいじゃん」
「それは……できないんだ。この『夢の中でのコンタクト』は、ニノミヤハヤト…………君だけとしかできないんだ」
「お、俺だけ……? な、なんで?」
「そ、それを今、説明して……い……る……暇…………は……な…………?!」
「!? お、おい……どうしたんだよっ!?」

 急に、この『ウサギ人間アリス』の言葉が途切れ、途切れになった。

「は、早いな~……もう……感づか……れ……ちゃった……み…………たい」
「感づかれた? もしかして、『入れ替わった神』にってこと?」
「まあ、そんな……か……んじ。とりあ……え……ず、こ……のこと…………をシーナに……伝……えて欲し……い。た……だ……たぶん……君はす…………ぐには思……い出せ……ないだ……ろう。でも……必ず……思……い出す……日……が来る。そ……のと……きは……シーナ……に……す……ぐに伝……え……てくれ。この……事を思……い出す……日が……早……いか、遅い……かは、君……次第だよ……ニノ……ミヤハ……ヤト……そ……れ……じゃあ……ねっ! バ……イバ……イ」
「あ、お、おいっ! ちょ、ちょっと待てよっ! ア、アリス……っ?!」

 気がつくと、そこにはアリスの姿は無かった。

『アリスがいないっ!』

…………と思った瞬間、俺の視界に広がる『氷と夜の世界』にヒビが入り、パリンッ! と割れた……と思ったときには、気がつくと、俺は、寮のベッドで寝ており、マルコに起こされていた。

「マ、マル……コ……?」
「ハヤト様っ! もう起きないと授業、遅れますよっ! 今日は授業初日です、もし、遅刻なんかしたら、あの『メガネツン女史』……サラ・スカーレット先生に何をされるか…………っ!」
「……メガネツン女史…………はっ?! やばいっ!」

 俺は、マルコが出した『メガネツン女史』というキーワードにより、現状を把握した。

 これは、やばいっ!

「マ、マルコ……ごめんっ! すぐに着替えるよっ!」
「お、お願いします…………時間はまだ、ギリギリですが、何とか、大丈夫だとは思います…………が、できるだけ、急いでくださいっ!?」
「お、おう……!」

 マルコでも、焦ったりするんだな……と、俺は少し感心しながらバタバタと顔を洗いにシャワー室へと向かった。


 それにしても…………なんだっけ? さっき『夢の中』で、何か、すごく『大事なこと』を言われたような、言われてないような……。あと、何か『変な奴』が現れて、そいつが…………何だっけ?


 アリスの言うとおり、俺は、『夢の中での出来事』を、きれいサッパリ忘れていた。